研究課題/領域番号 |
17K03893
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
篠崎 香織 実践女子大学, 人間社会学部, 教授 (50362017)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アナログ技術 / デジタル技術 / 競争優位 / 差別化 |
研究実績の概要 |
M&A実施企業が社内に蓄積した技術とM&Aによって獲得した技術の関係を明らかにするために、2021年度は研究対象であるモニターメーカーについて、1968年の創業時から近年までの事業展開がどのような技術の習得・蓄積を背景に進められてきたのかを分析した。分析に使用したデータは、有価証券報告書、CSR報告書、統合報告書、プレスリリース資料、新聞記事・雑誌記事、特許データベースなどの二次データである。 企業による技術の習得・蓄積、および技術の製品への活用の実態を時系列で把握することは、当該企業の強みとなる能力が、いつ、どのように養成され、競争優位に結びついているのかを検討する材料として重要な意味をもつ。また、M&Aの影響を捉える手がかりになる。 今回明らかになったのは、つぎの3点である。①ブラウン菅テレビの下請け生産を通じてアナログ技術(音声や電波といった、自然界の信号を扱う)を蓄積し、デジタル技術(コンピュータ内で0、1で表現される信号)は、技術者を関連会社に派遣し、そこでの回路設計を通して習得した。②アナログ技術は、遊技用のブラウン管ディスプレイ、コンピューター用のカラーディスプレイ、VTRに活用された。デジタル技術が遊技電子機器に活用されるようになると、デジタル画像処理技術が蓄積され、さらに温度調整など制御技術の開発や、パソコンによるデータ処理技術も手掛けるようになった。③エレクトロニクスの業界では、デジタル技術がもてはやされた時期もあるが、より高度なアナログの知識が求められる今日、両方の技術の蓄積は他社との差別化要因になっている。 当該企業は、2001年に副社長が社長に昇格してトップが代わっているが、一貫してアナログ技術とデジタル技術の融合に基づく製品開発が行われており、それはM&A後の組織においても維持されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分析対象企業の技術習得、蓄積のプロセスと技術の製品への活用状況を明らかにすることを通して、当該企業が実施した医療分野における4つの買収のケースは、技術の獲得という観点よりも製品やサービスの獲得の意味が強いことを明らかにできたため。 これらの買収は、モニター製造を主たる事業としている企業にとって、その事業を補完する結果となった。具体的には、①医療分野における活動範囲が、これまでは検査や診断の領域に限られていたが、手術室分野への参入を果たすことができた(検査や診断は、放射線科、内科を中心とするが、治療や手術は外科の専門領域である。近年、ハイブリッド手術室が整備され専門分野の障壁が低くなってきている)。また、モニター販売から、モニターの設置や保守管理等のサービス、手術室内のコンサルテーションといったビジネスを新たな柱に加えることとなった。②手術室内においては、内視鏡という専門分野への対応も可能になった。③さらに、手術室内では、「表示」の機能に、「撮影」、「配信」、「記録」の機能を追加することによって、それらをシステム統合することも可能になった。 当該企業にとってこれらの買収は、社内にない技術を獲得したということよりも、補完的資産を獲得することで、これまで障壁のあった市場に参入するとともに、システムインテグレータという役割を担うことを可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
分析対象企業は、産業用モニターの開発・生産から用途を広げて、現在では、医療用、グラフィックス用、エンターテインメント用、航空管制や船舶用、セキュリティ用のモニターの展開がある。いくつかの分野に参入しているメーカーはあるが、1社でこれらすべての範囲をカバーしているメーカーはなく、これを可能にしている要因を明らかにしていく。 2022年度はこれまで明らかにしてきたことを成果としてまとめていくことを課題にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生したのは、コロナ禍にあり当初の予定通りに国内外での調査が実施できなかったため。 次年度は、調査の実施や国際学会への参加等を中心に助成金を使用する予定である。
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