M&Aの実施は企業にとって成長戦略の一つのオプションであり、それが企業の競争優位に結びつくかどうかは、M&A実施後の組織マネジメントが鍵を握る。本研究では、買収実施企業が被買収主体とどのような関係を形成し、研究開発部門や生産部門においてどのような体制で活動しているかを捉え、買収が当該企業の業績や市場における位置取りに影響しているのかを考察した。分析対象は、国際的な買収を実施した4つのケースと国内の企業を買収した5つのケースで、インタビュー調査によるデータと二次データの分析を行った。初年度より高付加価値ディスプレイメーカーを対象にした調査を開始し、その後センサーをコア技術とするメーカー、最終年度はアパレル関連のメーカーを対象に加えた。買収のタイプは、水平統合型が1、垂直統合型が8である。 垂直統合型6つのケースでは、買収実施後も被買収主体の拠点は買収前の地にあるが(ドイツ、イタリア、オーストラリア、兵庫県、新潟県)、明確な基本方針に添って分業し、必要に応じて協業している。これは買収の主な目的が、市場への参入、技術や製品の獲得・活用にある場合は、買収実施企業と被買収主体のメンバーを混合させる組織配置は必ずしも必要ではないことを示している。一方、人の統合をしているケースは、獲得した機能を買収実施企業の保有する機能と統合しようとする場合である。水平統合型のケースでは、ブランドが社会に浸透していることから拠点も人員配置も基本は独立させたままである。 どのケースでも非買収主体の活動が尊重されている。被買収実施主体との向き合い方の方針はトップの考えに基づくため、これが社内に浸透していることが伺えた。ディスプレイとセンサーのメーカーは新たに進出した市場でも存在感を示しており、アパレル関連のメーカーは自社ブランドが確立しつつある。この結果から、現状は買収が企業の競争力を高めているといえる。
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