2023年度は、AJBS (The Association of Japanese Business Studies)Conferenceにおいて、企業の社会的責任(CSR)の「責任」への対応を超える企業倫理に根ざした社会のためのビジネスの事例を基に社会的課題解決型ビジネスのモデルを示した。また、従来型の日本の小さな地方コミュニティが、社会起業家の「ケアと共助」の精神を基礎とした地方創生活動によって変化する現状を、ネットワーク論の視点から分析した。さらに近年、気候変動や紛争の多発などのクライシス(深刻な危機)を引き起こす様々な要因が互いに関連し危機が長期化することを示し、企業活動への影響および経営戦略の刷新の必要性、および企業が健全な社会構築のための役割を果たすことの意義を主張した。 これらの研究成果をはじめ、研究期間全体を通じて、経済的利益を生み出すことを最優先し、自然環境、従業員、顧客、地域社会などのステイクホルダーへの負荷を増加させてきた企業経営スタイルの変化の必要性とその基盤としての企業倫理、特にケアの倫理の必要性を示した。実際、日本企業の中には、様々な社会的課題解決型ビジネスの事例が存在し、そこにはその長期的視点や、「責任」ではなく社会の中の1プレーヤーとして企業も他のプレーヤーと共に社会の課題を解決していきたいという独自の企業倫理の在り方がみられる。 また、株式会社という組織形態そのものが株主の利益増大を最優先に図るという使命をもつとすると、協同組合のような従業員がマネジメントに関わるガバナンス体制を有する組織の価値も検討されるべきである。それらの組織の事例からはコミュニティへの貢献や農業、教育、人々の健康、コミュニケーションなどの面での価値創造がみられ、Business for Society型ビジネスの一例ともいえる側面を有していると考えられる。
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