研究課題/領域番号 |
17K03895
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
露木 恵美子 中央大学, 戦略経営研究科, 教授 (10409534)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 場 / 現象学 / フッサール / 相互主観性 / 受動的綜合 / アクションリサーチ / 地域創生 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では、地域コミュニティにおける事業化を支える基盤としての「場」および人的ネットワークの構築と再構築のプロセスの解明と、「場」と人的ネット ワークに関する理論の精緻化を目的としている。 2018年度に実施した理論研究(場の理論の精緻化)と現地調査(フィールドワーク、アクションリサーチ)について以下に記述する。
理論研究:場の理論の精緻化については、従前より取り組んでいる東洋大学名誉教授の山口一郎先生と出版事業「職場の現象学」の初稿を2018年末に完成させた。本書は、フッサールが提唱した受動的綜合の概念を用いて、それを職場で起こる様々な現象に適用し、場における共創の可能性に言及した著作である。書籍の構成は理論編、事例編、対談形式による事例の理論的解釈とし、具体的な事例には、駿河湾桜えび漁業の事例、知的障害者施設こころみ学園における仕事と身体性の事例、さらに企業事例(㈱前川製作所における顧客との場の共創、巣鴨信用金庫におけるホスピタリティの実践)を取り上げて、あとは数回の校正・編集作業をするところまで来ている(出版は2019年年度内予定)。 2018年度9月よりウィーン大学哲学部にての在外研究の一環として、ゲオルグ・ステンガー教授の研究室に所属しながら、同教授の専門とする間文化哲学についてゼミや授業への参加、博士課程の学生などとのディスカッション、ワークショップなどを行った。場の理論研究では、西田哲学の場所論と現象学の受動的綜合の理論を統合した理論構成を目指しており、西田の場所論を始めたとした京都学派に造詣の深い同研究室での議論は、理論の精緻化に大いに役立った。
フィールドワーク:フィールドワークとしては、4月~8日までは継続調査をしている由比港漁協の桜えび漁業の事例について、訪問調査等を数回行った。ウィーンでは同地域内のインキュベータ等への訪問を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論研究においては、当初より予定していたウィーン大学の在外研究が順調にスタートし、同研究室や同学部における様々な新しい知見に触れることができ、理論の精緻化ならびに理論的発展の可能性(西欧世界における場の理論の適応可能性)に手ごたえを感じた。 ウィーン大学哲学部は、教授陣もEU圏からトップクラスの人材が集まるドイツ語圏の哲学研究の拠点の一つである。間文化哲学を専門とするゲオルグ・ステンガー教授の研究室では、西田哲学を専攻する学生も多く、場所論についても活発な議論が行われている。さらに、フッサールのみならずハイデガー、メルロ=ポンティなどの現象学者についての研究も幅広く行われており、それら研究者との交流は、当該研究においても大きな収穫となった。 また、ウィーン大学のみならず、ウィーン経済大学のアレクサンダー・カイザー教授の研究室では、知識経営論やU理論(経営学と現象学の融合)を研究しており、同教授との議論や研究室での講演などで、欧州での場の理論の発展可能性手ごたえを感じた。
フィールドワークにおいては、2018年度前半は国内のフィールドワークを中心に行った。由比港漁協における桜えび漁業の調査は、従来と同じく継続的に現地を訪問しており、2018年度においても、ほぼ毎月1回程度訪問している。また、一時帰国した2月にも訪問した。桜えび漁は資源量の減少により、長年続けてきたプール制の在り方を含めた従来の漁業の方法の見直し、地域の産地仲買との関係の再構築等、環境変化に応じた対応を迫れており、現地訪問調査では仲買組織の代表等からもヒアリングを行う等、地域再生へ向けての動きをフォローしている。また、漁協幹部の再選がありかなり若返りがなされたが、ほとんどの幹部とは既知の仲であり、常に最新の情報を得られる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、代表研究者は同9月まで在外研究のためオーストリアのウィーンに滞在する予定で、欧州にての研究を推進する予定である。
理論研究の推進と成果の発表:ウィーン大学哲学部に所属しての在外研究の目的は、現象学的アプローチを場の理論に応用し、理論の精緻化と発展可能性を探求するためであった。具体的に、これまで研究をしてきた成果を日本においては書籍『職場の現象学』として、欧州においては英語論文”Ba “field”Theory and Collective Creativity:A Phenomenological Approach to a Conceptual Model”として作成し英文ジャーナルに投稿する予定である。すでに初稿はどちらも初稿は完成しており、これから出版、ならびに投稿する段階にある。また、学会発表では、2019年6月にISPIM(the International Society for Professional Innovation Management)の年次大会にて発表することが決定している。2019年は科研費の最終年なので、主に成果物の発表に力を入れていく予定である。
フィールドワークについては、ウィーンならびにドイツの企業のヒアリングを2019年3月より開始した。特にウィーンの企業は200年続く老舗のピアノメーカーであり、地域の文化や伝統に根差した企業である。音楽や芸術の街としてのウィーンという地域コミュニティと楽器メーカーとの関係は、地域創生という観点からも興味深い事例であり、今後も継続調査を行う。欧州における企業や事業化については、ウィーンならびにイタリアのインキュベータの訪問、さらにはスタートアップへのヒアリングを計画している。場の理論の公表として、ウィーン大学哲学部での講演とワークショップを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は在外研究のため、当初は科研費の使用が学内制度によって認められていなかったが、旅費(宿泊費や日当除く)が支給されることに学内ルールが変更されたため、2019年度分から30万円を前倒し請求をした。しかし、9月にウィーンに着任してから当地での在外許可(半年間の滞在許可は日本で得ていったが、その後半年の滞在許可は現地で行う必要があり)の取得のため、オーストリア国外への出張が制限されたため、EU圏内でのフィールドワーク等はおこなわず、最終的に前倒し申請したうちの約半分を使い切ることができなかったため。 現在は、2019年9月までの在留許可を得ることができたため、2019年3月よりEU圏への出張・フィールドワークが可能になった。
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