研究実績の概要 |
平成29年度は退職給付債務と資本コストとの関係を調べる研究のため、インプライド資本コストの算出を行った。具体的には、近年の関連する研究で用いられている4つのモデル(Claus and Thomas, 2001, Gebhardt et al., 2001, Ohlson and Juettner-Nauroth, 2005, Easton, 2004)について、利益予想データと株価からインプライド資本コストを計算した。この手法はヒストリカルなデータを用いて資本コストを推計する方法に比べ、その時点での投資家の期待を反映するという利点がある。 上記で求めた4つの資本コストを従属変数とし、一般的な資本コストのコントロール変数を加えた上で退職給付債務が資本コストに及ぼす影響を推計した。分析の結果、退職給付債務が資本コストを高めている可能性が示唆された。この結果は、確定給付型の退職給付制度が株主に帰属するキャッシュフローの変動性を高めていること、会計情報の不透明性を高めていることを示唆する。これらの結果をワーキングペーパーとしてまとめ、複数の研究会で報告した。 他方、従業員の老後の生活を安定させる確定給付型の退職給付はCSR(企業の社会的責任)の観点からは高く評価できる。そこで他の項目も含めた対従業員でのCSRレーティングと資本コストとの関係も検証することにした。また、比較対象として対環境でのCSRレーティングとの関係も検証した。両社とも総合的なレーティングでは明確な傾向が確認できなかった。
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