研究実績の概要 |
本件研究課題「日本型財務保守主義の実態と企業価値に与える影響」においては,[1]資金提供者との関係,[2]投資抑制効果,[3]キャッシュフロー計算書データの解析,[4]日本型財務保守主義の評価の4つの研究テーマを段階ごとに進めて行く計画であるが,研究期間の初年度においては,[1]に注力した。先行研究では財務保守主義を過剰現金準備と低レバレッジでとらえることが多いが,本研究ではレバレッジを低める新株発行はむしろ財務保守主義の対極にあるととらえるところに特徴がある。そこで,特に日本の上場企業において,新株発行の実態を調べ,企業はいかなる要因から新株発行を行うかを2段階最小二乗法による需要供給均衡モデルで推定した。 新株発行の実態を調べた高見(2018)では,IPOだけ行い市場から退出する企業が多い中,規模が大きく社齢の古い安定的な企業は,PO,第三者割当割当増資による株式発行はみられるが,IPO後に新株発行を行うことは少ない。負債調達だけでは資金調達に限界がある場合に新株発行はみられることもあるが,空運業のようにむしろ少数派である。このことは,一般的に株主構成を変えることに保守的な態度をとる企業が大勢派をしめることを示している。 新株発行の要因を調べた研究(学会発表)では,ディスカウント率を価格として,資金調達額が需給均衡するモデルで,IPO,PO,第三者割当増資の3つのマーケットごとに検証した。得られた結論は,①3つのマーケットごと企業が重視する要因は異なること,②IPO後,POまたは第三者割当増資を行う要因には株主構成が大きくかかわっていることである。 これらから,株主構成を変えたくないという保守主義はむしろ新株発行に抑制的であることを示唆している。
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