IT戦略は経営戦略に沿って策定されるべきである、または、IT戦略は経営戦略の一部であるという議論がある。しかしながら、基幹系システム構築のように事業横断的な大規模プロジェクトでは、経営戦略とIT戦略に沿って整合すべき要素が広範囲となり、個々の要素間は必ずしも共通の目的や方向性を共有しているとは限らない。したがって、本研究ではビジネスとITに関わる整合性に関する代表的な先行研究に基づき「経営戦略とIT戦略のねじれ構造モデル」を示した。このモデルでは経営戦略に基づき事業側面での整合性の調整を担う「事業のアライメント軸」、IT戦略に基づき技術側面での整合性の調整を担う「ITのアライメント軸」、および、事業側面と技術側面の間の整合性の調整を担う「経営戦略のアライメント軸」の3つの軸に整理し、事例に基づく検証を通じて情報システム刷新時にプロジェクトの遅延を起こしやすい構造的要因の解明を試みた。その結果、遅延の生じなかったプロジェクトだけではなく遅延が生じたプロジェクトにおいても経営戦略とIT戦略はある程度明確に示されていることが判明した。しかしながら、両者の違いは両戦略を結ぶ「経営戦略のアライメント軸」において、業務プロセスとシステム機能・データとの間の整合性の調整が適切に実現できたか否かに依存することが明らかとなった。 昨年度までに行った研究を踏まえ、基幹業務システムにおけるライフサイクルにおいて、本稼働後のシステムの運用やマネジメントが適切に遂行されるか否かは、その開発時より経営戦略とIT戦略の整合性が十分に調整されていたかにも依存する。その点において、経営者のリーダーシップや関与は多くの先行研究でも指摘されているが、ねじれ構造に関する分析から「なぜ経営者の関与が必要か」をより的確に説明できたものと考えられる。
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