研究課題/領域番号 |
17K03913
|
研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
奥井 秀樹 久留米大学, 商学部, 教授 (30411713)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 組織市民行動 / 生起メカニズム / 既存研究の意義・限界 / 今後の研究の方向性 / 状況要因 / 文化 / 仕事の専門性 |
研究実績の概要 |
組織市民行動研究はその誕生の経緯から、研究関心が狭く限定されてきた。当概念は、職務満足と数量的な意味での個人の生産性や組織の業績の間には弱い関係しか見出されないとする伝統的な見解に対する反論のために注目されるようになった概念であるという経緯がある。そのため、研究の視点が「職務満足ありきの分析視角で、あらゆる状況に適用可能な一般的なモデルを構築する」ということに限定される傾向がある。 当該年度に実施した研究では、交付申請書に記載した「研究の目的」と「研究実施計画」の通り、既存研究のレビューを行い、前述したような従来の研究の流れは、組織の効率性・有効性と深い関わりを持つ組織市民行動の生起メカニズムについて、あらゆる組織に広く当てはまる知見を提供するという点で意義のあるものであると指摘した。その一方で、従来の研究の限界として、職務満足と生産性の関係というテーマに固執するあまりに、人が組織市民行動を行うメカニズムについて、純粋な立場で深く考察するという姿勢には欠けていた面があるとの主張を展開した。 その上で、理論的考察を行い、個人の物事の認識のしかたや価値観、意味づけのパターン、そして組織市民行動生起のメカニズムに影響を及ぼしうる状況要因について詳しく知っておくことが、今後、組織市民行動研究を展開する上で非常に重要であるとの見解を示した。 さらに、現時点で有力な状況要因であることが分かっているものとして、国レベルでの「文化」と「仕事の専門性」の2つをあげ、今後の研究展開の方向性として①それらの2つの状況要因について、さらに掘り下げた研究を行い、それらの状況要因を考慮にいれた個別状況特化型の組織市民行動生起のメカニズムの精緻な説明モデルを構築・検証する、②有力であると考えられるだけの条件を満たす状況要因を新たに探索する、という方向性が考えられるという結論を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要に記載したとおり、当初予定していた研究計画は十分に達成した。具体的には、当該年度に行う予定であった①これまでの組織市民行動に関する研究を詳細にレビューすることを通じて「職務満足ありきの分析視角で、あらゆる状況に適用可能な一般的なモデルを構築する」という従来の研究スタイルのあり方の意義と限界を明確化する、②そして、それに基づいて、個別の状況に注目するという本研究の重要性について、強固な理論的根拠を提示する、という当初の研究計画を達成できた。 それに加えて、本来は次年度と次々年度に実施する予定であった①「業種」や「仕事の専門性」を主な候補として組織市民行動の生起メカニズムに影響を及ぼす有力な状況要因を探索・特定すること、②特定した有力な状況要因と既存研究での組織市民行動の説明モデルを考慮に入れたうえで、個別状況特化型の独自性の高い説明モデルを構築すること、③これまでに実施した数度のアンケート調査のデータを使用して、その説明モデルのデータへの適合度を検討すること、という目標を相当程度に達成できた。その成果は、査読論文(奥井秀樹「仕事の専門性と組織市民行動 -製造業における質問票調査結果の分析-」日本経営システム学会誌、Vol.34、N0.1、pp.61-71.)としてまとめ、受理・刊行された。さらに、この査読論文が評価を受け、日本経営システム学会の2017年学会賞に決定した。 これらのことから、本研究課題の進捗状況は当初の計画以上に進展していると評価するのが妥当であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、基本的には、前倒しで得られた研究成果である査読論文(奥井秀樹「仕事の専門性と組織市民行動 -製造業における質問票調査結果の分析-」日本経営システム学会誌、Vol.34、N0.1、pp.61-71.)をベースとしつつ、理論と分析手法の両面からより深く掘り下げた検討を行っていくことを予定してる。そうすることで、本研究課題の最終年度の研究計画である「有力状況要因を考慮に入れた組織市民行動生起の説明モデルの構築・検証」を予定通り成し遂げられる可能性が高いと考える。 また、九州部会からの推薦で経営学系で最大級の会員数を誇る日本経営学会の第92回大会で学会報告を行うことが決定しているので、今後の研究を進めるにあたっては、そこでの報告時に得られた他の専門家の質問やコメントもよく検討して、望ましい方向性を導き出す予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
図書を購入したところ、所属機関のルールで1冊の図書について科学研究費補助金を打ち切り支給として、その残額を大学の個人研究費から支出するという手続きはできないということであったので、その図書を大学の個人研究費で購入することにしたため、1,270円の次年度使用額が生じた。 この次年度使用額については、次年度の物品費に組み込んで使用する計画である。
|