研究課題/領域番号 |
17K03915
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
細矢 浩志 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (10229198)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 欧州自動車産業 / 生産ネットワーク / 国際分業 / 国際経営 / 多国籍企業 |
研究実績の概要 |
○本研究の目的は,欧州連合(EU)の東方拡大を契機に広域化したヨーロッパにおける自動車産業の国際的な生産ネットワーク戦略について実証的に分析・比較検討することをつうじて,自動車多国籍企業の国際的な分業モデルの基本構造とその発展の方向性を明らかにすることにある。 ○当該年度は,近年,自動車産業で語られる「100年に一度」といわれる事業環境の変化を「CASE(C=Connected,A=Autonomous,S=Shared & Services,E=Electric)革命」と位置づけ,その技術的革新性や社会的意義,変革に対するEU自動車企業の取組みなどについて検討した。 ○公表した一連の論文・報告において次の諸点を指摘した。①欧州自動車産業は,今世紀初のEU東方拡大をきっかけに構築した汎欧州生産ネットワークを巧みに活用することで,自動車産業をとりまく競争環境の変化に立ち向かおうとしている,②電気自動車(Electric Vehicle=EV)の普及や「EVシフト」と呼ばれる状況で注目される車両動力機構の「電動化」の推進をつうじて,組立事業拠点の配置転換(イギリス),バッテリー工場の建設増(中東欧)など生産体制を再編する動きが加速している,③とはいえ「電動車」(EV,燃料電池車FCV等)に対する需要は総じて弱く,EUクルマ社会の「電動化」はいまだ「法制主導」的(CO2排出抑制など諸規制による推進)であり,電動車両の中核的存在EVの本格的普及については,その関連技術が開発途上であることを踏まえれば慎重な見方にならざるを得ない。 ○「CASE革命」に代表されるグローバル自動車産業をとりまく事業環境の急転は,ネットワーク型生産・分業の態様に大きな影響を及ぼす要因であることを確認し,ネットワークの経済的特性把握において不可欠な分析視角であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
○前年度に追加した調査対象項目(=自動車産業をとりまく環境変化として世界的に進展する「CASE革命」の最新動向と欧州自動車産業・企業の「電動化」戦略)について概括的な見取り図を描くことをつうじて,「CASE革命」が欧州生産ネットワークの動向に深甚な影響を与える要因として重要視すべきことを確認できたが,研究の中核をなす多国籍企業現地子会社の実態分析とネットワーク戦略の基本構造解明については,多くの課題を残している。ネットワーク周辺諸国における多国籍企業現地子会社の「多様な」活動(たんなる低賃金雇用を活用した単純作業・低付加価値活動にとどまらずR&D活動や産業「高度化」が進展しているようす)を理論的に説明する国際分業モデルの解明については道半ばである。 ○本研究では,欧州自動車生産ネットワークを構成する主要な周辺諸国(多国籍企業が現地生産子会社を設置している国)として三国(チェコ,スペイン,ルーマニア) を想定しているが,本年度までの研究において産業発展の経緯と現地子会社の経営実態について,計画にもとづき順調に分析・検討を進めることができたのはチェコとスペインの二対象国である。ルーマニアについては,日本における先行研究の手薄さに加え情報ソースの開拓自体が困難な状況にあるため,基本統計と時事ニュース等による現地事情の概要把握にとどまっている。 ○最大の理由は,当該年度に予定していた欧州現地調査の実施が,世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって延期を余儀なくされたことにある。コロナ渦の影響は,年度後半に計画していた研究集会の中止を引き起こし,研究成果の発表・検討の機会を失うことにも繋がった。現地調査と統計・文献解析にもとづく実証的検討との間での相互検証によって支えられる本研究は当初計画したスケジュールで進展していない。
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今後の研究の推進方策 |
○原則として前年度までの未達研究を遂行しつつ,漸次,当該年度に予定している研究計画に移行する。年度後半には本研究全体をとりまとめ総括する。 ○年度前半については,前年度までの研究によって得られた知見をチェックしつつ,残された問題点を洗い出すとともに,欧州自動車産業・企業の生産ネットワーク戦略ならびに国際分業態勢の変化・変容において「CASE革命」の進展がどのようにかかわるのかという新たな分析視角を加えて考察・検討の精緻化を図る。 ○年度後半については,前年度に計画した欧州現地調査を一部変更して実施する。調査訪問先については,欧州自動車生産ネットワークにおける代表的な分業拠点で中核的な役割を担う多国籍企業現地子会社の経営実態の比較検討をつうじた研究の発展をはかる観点から,典型的な新旧周辺国としてそれぞれスペインとチェコの二カ国に絞り調査活動を遂行する。 本来であれば,海外調査活動の実施は年度前半に計画すべきであるが,前述したように新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で,現在,海外渡航が原則禁止されているため,年度後半を想定せざるを得ない。ただし新型コロナ感染の展開状況に応じて柔軟に調整することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
○次年度使用額が生じたのは,前年度に引き続き調査・統計資料の整理・データ入力作業を担う補助要員として想定した雇用(人件費)を節約できたことに加えて,当該年度後半より深刻な様相を呈しはじめた世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響により海外渡航が禁止されたことによって,2020年2月に予定していたヨーロッパでの海外現地調査を実施できなかったことが,主な理由である。 ○次年度に繰越し予定の助成金は,ヨーロッパ現地調査活動の執行経費として使用する。令和2(2020)年度の研究費総額は,研究実施計画書に記載した当該年度の研究経費と繰越し予定金との合計額を予定する。
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