研究課題/領域番号 |
17K03940
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小関 珠音 大阪市立大学, 大学院都市経営研究科, 准教授 (20779368)
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研究分担者 |
赤羽 淳 中央大学, 経済学部, 教授 (30636486)
山田 仁一郎 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (40325311)
長尾 謙吉 専修大学, 経済学部, 教授 (50301429)
新藤 晴臣 大阪市立大学, 大学院都市経営研究科, 教授 (70440188)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大学発ベンチャー / 有機EL / ラジカルイノベーション / 産業ライフサイクル / 経路依存性 / エコシステム |
研究実績の概要 |
平成30年度は、次の4項目を実施した。(1) 有機ELベンチャー企業の分析―有機EL分野の基礎技術を持っているベンチャー企業(国内2社及び欧米2社)の机上調査を基に、国内の有機EL関連の大学研究者/研究開発所長/エンジニア等、各所にヒヤリングを行った。このうち欧米2社は、それぞれ創業より10年程度の間において、日本企業との戦略的提携によって技術開発・商品開発経緯等に従事していることから、その具体的内容を確認した。(2) 大学発ベンチャー起業についてのアクションリサーチ―九州大学の足達千波矢教授(有機EL基礎化学発明者)が率いる有機光エレクトロニクス関連の実用化プロジェクトチーム「i3-opera(アイキューブオペラ)」にて講演を行い、九州大学及び同組織からの新規ベンチャーの創出支援(アクションリサーチ)を開始した。(3) 上場した大学発ベンチャーの分析―国内で2015年度-2017年度までに上場を果たした大学発ベンチャー(18社)の分析:東京証券取引所への協力を得て対象企業を特定し、HP/登記簿謄本/目論見書/有価証券報告書等から、基礎データの抽出と資本政策の分析を行った(前年度には2014年度まで調査完了)。(4)米国起業支援エコシステム視察―サンフランシスコ、バークレー、サンディエゴ、ボストンにおける起業支援の実態(エコシステム)について調査を行った。また、米国で素材系ベンチャーに特化したキャピタルファンドについてヒヤリング及び調査を行い、米国においては、素材関係/モノづくりベンチャー企業の大学発ベンチャーは(人工知能等に比較すると)少数であり、その事業創造には長い時間がかかることが確認された。これらの調査により、論文の事例研究のための情報を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記活動内容の(1)(2)については、申請書に記載した研究計画のうち、Ⅰ.仮説形成、Ⅱ有機ELベンチャー(分析、Ⅳ.地域への貢献(九州大学の分析)、V.液晶産業、台湾/韓国企業との比較、に関連し、(3)(4)は、Ⅲ.日本国内の大学発ベンチャー事例研究に関連した活動である。 有機EL分野の欧米ベンチャー企業2社は、応用開発と試作品製作、市場創造のプロセスにおいて、日本の大企業と共同研究等を実施し、日本企業の知見を活用して、商品開発の実績を積み上げた。言い換えれば、大学発ベンチャーは、ラジカルイノベーションの触媒機能を担うものの、単独でイノベーションを創出するのではなく、周辺技術開発やバリューチェーンを整えるプロセスにおいて、他社との協業や相互依存関係の構築が必須であることを確認した(小関・山田・赤羽,2018)。また、この研究成果は、大学発ベンチャーが組織を整えるにあたり、社内のガバナンスのみならず、幅広いステークホールダーや協業パートナーとの協力関係を構築する能力が不可欠であること、を見出した。 計画以上の進展としては、上場した大学発ベンチャーの分析の対象企業の追加であり、2014年までの上場企業に加えて2017年までの上場企業の傾向を比較した。これらのデータから鑑みても、大学発ベンチャーのゴールは、投資家の利益享受の機会であるExit(M&A, IPO)に限定せず、むしろそのイベントを起点として、資本家との関係性の制約にとらわれることなくラジカルイノベーションを創発し、産業形成を目指すべきであることを見出した。この前提に立ち、大学発ベンチャーの存在意義は、ラジカルイノベーションのけん引役となることであり、周辺業界との協業関係を構築し、ライフサイクルを進展させることにあるという、新たな研究課題を創出したことに大きな意義がある。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の研究活動によって、大学発ベンチャーの産業形成における機能と役割の仮説を明示したが、現実社会においてその機能や役割が発揮されるために、大学発ベンチャーの当事者がなすべきである具体的方策を明示する必要がある。そこで、最終となる2019年度においては、有機EL等の素材産業の他、バイオ/ICT/AI等の産業分野別に、ラジカルイノベーションの触媒機能と、産業形成のライフサイクル進展の役割を明示的に示し、それを基に、大学発ベンチャー個別企業の創業と、段階に応じた成長プロセスを概念化する。この研究課題の分析視覚として、資金調達と戦略的提携や地域エコシステムの活用など、経営資源の補完について具体的検討を行っていく。 大学発ベンチャーが革新的科学技術を基に事業を開始し、産業を形成するまでのプロセスは長く、10年-20年の時間を必要とする。一方、ベンチャーキャピタルなどの投資家が成果を求める期間は7-10年であり、そこには投資価値に関する時間価値(Time Value of Money)の齟齬がある。大学発ベンチャー企業が、産業形成と歩調を合わせて成長を遂げるプロセスにおいて関与するステークホールダーは多様であり、かつ各々のステークホールダーの価値観や収益概念は一様ではない。とするならば、大学発ベンチャー側にも、成長段階に応じて、ステークホールダーの関与の仕方を管理する能力が必要となる。また、この論点に鑑みれば、大学発ベンチャーの短期的に要請される、初期投資家への収益還元(M&AやIPOなどのExit)の在り方についても再考の必要がある。なぜなら、投資家の収益確保のために近視眼的になることが、長期的成長の制約になる可能性があるからである。2019年度は、これらの論点を織り交ぜながら、3年間の研究成果を統括していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者の所属が変わったため、研究計画を改訂し、それに伴い予算配分も変更となった。
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