研究課題/領域番号 |
17K03952
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
森田 道也 学習院大学, 経済学部, 名誉教授 (10095490)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 戦略的行動 / 製品開発 / サプライチェーン / 製品開発とサプライチェーンの統合 / 情報処理能力 / 情報技術 / Industry 4.0 |
研究実績の概要 |
2018年度は、第1に製品開発とサプライチェーンの能力の統合に関して論文化し、International Journal of Production Economics誌で刊行した。当年度の第2の研究課題は、それら両能力の有効な連動的駆動のための論理構築であった。そのための研究焦点として情報処理能力と事業戦略展開パターンを掲げた。研究仮説としては、まず第1に両能力を連動させ統合的に利する企業は情報処理能力強化を重視し、第2に事業戦略の経年的展開において両能力を事業環境に応じて交互的に利するというものであった。 第1の焦点に関しては、当年度では、多くの企業が注目するIndustry4.0(以後ではI4.0)などの情報技術活用に関する新たな枠組みと可能性を、連動性を具備する企業はより高く評価し、実践するという仮説で分析した。I4.0の企業調査をドイツ、オーストリア、イタリア、スペインの研究者と連携して行い、5カ国のデータをもとに実証分析といくつかの企業への訪問調査を行った。その結果、I4.0への期待度やそれを構成するIoT等の情報技術の実践度と連動性の高い正の相関を確認した。本結果はスペインのグラナダでの国際POMS学会で発表した。また、I4.0において重要な構成概念であるSmart FactoryおよびSmart Productの実践度と連動性の関係も分析し、同じく高い正の相関性を確認した。その結果は2019年6月のEurOMA学会で発表する。第2の研究では日経データを用い、日本の機械、電気機器、輸送機器の一部上場企業のこの15年間の時系列分析を行った。両能力が効く指標として売上成長率、有形固定資産回転率、棚卸回転率、そして売上原価率を用い、営業利益率を成果として近年注目されている統計的学習推定方法で分析し、業種毎に興味あるパターンを抽出した。秋のJOMSA学会にて発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は若干の予期しない状況によって(配偶者の体調不良)活動内容の順序を含む変更があったけれどもほぼ予定に近いものといえる。製品開発力とサプライチェーン力の統合性をそれらの連動性を持続させながら高めていく資質が持続的高業績企業の特徴であるという仮説の検証と論文化をすることができた。2018年度ではその連動性を構築し、常に強化していくための実践論理を明らかにすることが主たる研究課題であった。その課題に対して、3つのアプローチを検討してきた。第1は、連動を支える情報処理能力に着目するアプローチ、第2は事業戦略の展開における製品開発力とサプライチェーン力のより有効な交互作用のパターンに着目するアプローチであった。前者のアプローチではIndustry4.0の調査結果を踏まえた実証分析を行い、仮説を肯定する検証結果を得た。本分析はまだ進行中で論文化する予定である。第2のアプローチでは事業戦略の展開を、売上成長率、在庫回転率、有形固定資産回転率、そして売上原価率という両能力を典型的に経営プロセスの成果として表現する指標の時系列データの分析を行い、それらの指標の推移パターン、換言すれば2つの能力の交互展開のパターンと経営成果(営業利益率)の関わり合いを分析することで連動性の駆動の意味合いを明らかにする。Induistry4.0と同じ3業種(電気機器、機械、輸送機器)を対象としている。本研究はまだ未了であるが、各業種における違いが明確に発現していて、両能力の交互作用と連動性の意味合いについて興味ある解釈ができることを確認している。第3のアプローチとして、このようなデータに基づく分析と平行に、実際の企業における連動性の意味合いや実践における諸問題を探る研究も補完的に進めている、これはデータからの意味合いを解釈するうえでも重要であり、継続的に進める。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、既に述べた3つの異なる方法論をさらに展開する。情報処理能力からの視点の研究では、Industry4.0の調査データに基づくさらなる分析を進める。情報技術活用の積極性と同時にそれによる経営成果との関わり合い、さらには製品開発力とサプライチェーン(以後SC)力のさらなる強化や連動性の強化への効果、そして業種や国別の違いなども分析の焦点になる。これらは仮説検証型のアプローチとなる。これらの研究では上記の国際共同研究の形態をとることになる。これらの成果は随時、内外の学会での発表、そして学術誌論文としての刊行を企図している。事業戦略に関する時系列分析では近年注目されているランダムフォレストなどの統計的学習推論方法を適用して分析作業を継続する。データとしては一部上場企業の日経時系列データを用いる。分析作業は継続中であるが、従来の重回帰分析よりも分析精度の高い、興味ある結果を得つつある。その事業戦略パターンの意味合いと製品開発力とSC力の連動の関連付けなどが研究の焦点になる。それら2つの能力は競争や市場の局面の変化に適応するように交互的かつ連動的に展開されていくべきことは事前的には予想できるが、事業戦略パターンとして浮かび上がらせることでその連動の意味合いを明らかにする方向でさらなる分析を行っていく。実際企業への訪問調査も平行的に進めるが、開発とSC能力をいかに連動させるか、そこにおける経営的課題は何かなど実際の知見を抽出し、それらによって上記のデータ分析の意味合いを豊かにするために重視している。さらには当研究成果を企業経営の視点から評価してもらい、実践論に展開するための知見を補強することも重要な狙いである。 以上のような研究推進を最終的には製品開発力とSC力の相互作用による経営力強化の論理構築に向けた方向で収束させていくことが最終年度の研究内容である。
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次年度使用額が生じた理由 |
企業への訪問調査において、比較的近距離訪問が多かったこと、さらには予定した訪問が企業側による事情によって不可能となったことが大きな要因であった。当該助成金は次年度における企業訪問調査において使用する予定である。さらに、2018年度においてIndustry4.0の国際共同調査の結果を踏まえた分析において、今後の研究の発展性を鑑み新たな統計分析手法を適用することに関するスペインの研究者グループとの共同研究会を開催する提案が出てきたので、そのための相互交流訪問の計画が提案されていて、そのための費用にも充当する予定である。
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