研究課題/領域番号 |
17K03952
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
森田 道也 学習院大学, 経済学部, 名誉教授 (10095490)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サプライチェーン戦略 / 製品市場戦略 / 連動的戦略経営 / 情報処理能力 / 情報処理技術 / Industry 4.0 / ASCOS |
研究実績の概要 |
本研究課題は、企業の優れた戦略的行動は高いサプライチェーン能力と製品開発能力およびそれらの連動的作用によって特徴づけることができて、それらの連動が企業の持続的競争優位につながることを実証し、さらにその連動のメカニズムを解明することであった。実証に関しては3つの論文化をおこなってきたが、サプライチェーン能力をリードタイム短縮、適合品質向上、需要の変動性抑制、プル制御(JIT制御)の実践水準、製品開発力を職能間連携、サプライヤー連携、顧客連携の実践水準と定義し、それらの尺度を作成し信頼性および妥当性で存在しうることを確認した。それら能力の高い企業は新製品および既存製品の両方において競争力が優れているという経年的な競争優位をつくりだすことを実証した。 第二の課題では連動構造の構築メカニズムに取り組んだ。そのメカニズムのベースには企業の優れた成果を持続させるための規範的思考と組織を効果的に駆動するコミュニケーションを含む情報処理能力があるという視点から検討した。規範的思考はその情報処理能力の基盤と考え、組織成員がその規範的思考にのっとり、必要な情報処理能力を理解し、その構築を実践するという行動仮説を掲げた。そのような行動の一環として、まず把握しやすい現象として情報処理技術の活用行動に着目して分析をおこなった。上のような経営特性を持つ企業は情報処理技術をより積極的に取り入れ、活用し、効果を上げるという仮説の検証を行うこととした。これはIndustry 4.0への積極的取り組みとその効果が上記のような経営特性の程度と正の相関があるという仮説の下で分析し、その仮説は有意であることを確認した。従来から情報処理技術の活用のドライバーと成功要因についての研究がなされてきたが、それに関する一つの貢献ともなりうる結果である。情報処理能力強化の分析はまだ中途であり、今後さらに研究を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、サプライチェーン能力と製品開発能力が高い水準で達成され、それらが連動的に機能することで競争力および価値創造力を持続的に堅持できるという論理を実証し、そのメカニズムを解明することであった。当該年度は、特にそのメカニズムに関して、情報処理能力に着目し、それを高めることで連動メカニズムを構築できるという命題を実証することに主眼を置いた。その分析では、情報処理技術をいかに活用するかという視点に立って、それら情報技術活用の取り組みの度合いと上記連動経営の正の関わりを実証する作業に取り組んだ。従来、組織構造などの経営的特性と情報処理力の関係を明らかにする試みが行われてきたがそのアプローチでは操作的な知見にはつなげにくいという問題を鑑み、本研究では情報処理技術の活用力に着目した。そのために、Industry4.0に関する国際共同調査を5か国でおこない、その取り組みの水準と連動経営の関わりを明らかにしようとしてきた。その結果、連動的特性の高い企業は、近年のIoT、Cloud computing、Analytics、ARなどの情報技術、さらにSmart factoryやSmart product等のデジタル・ツインへの取り組み度が高いことを実証できた。連動性の高い企業は情報処理技術への取り組み度合いも高く、またそれによる競争力向上などの成果を上げていることがわかった。これらの学会発表は行い、論文化に着手しているが、さらなる実際企業へのヒアリングなども行い、この知見の意味合いをより実践的にしていくことが作業として残っている。しかしながら、2019年度の最後の三か月はCOVID19のために殆ど実地調査はできず、さたに論文を共同執筆している国際共同研究者の来日による共同研究などもできず、その意味で予定外に遅れがでている。それは今後の大きな課題として取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の中心は、第一に、サプライチェーン能力と製品開発能力の各々を高め、それらのプロセスが連動的に機能させうる企業はそうでない企業よりも情報処理能力強化への積極性が高く、さらにその効果をより高く引き出すということの検証をIndustry 4.0の実践に関する国際共同調査のデータを用いて綿密に行い、その成果を論文化することである。これらの成果は内容的には3つの論文としてまずは仕上げ、刊行すべくスペインの共同研究者グループと検証計算と執筆を続けていく。 第二は、上記連動経営のための情報処理能力というものをより操作的かつ規範的なモデルとして構想することである。それは戦略策定を含む計画的行動のモデルとして構築することを検討している。企業が事業部をベースとして事業構造および規模を拡大していくにつれてサプライチェーンおよび製品開発のプロセスは複雑化し、錯綜していく。サプライチェーンにおけるボトルネックを気づかないうちに生み出し、市場への反応の遅れを供給活動および製品開発両面できたすと同時に、効率性を伴わないで収益性も高まらない。その結果、大企業病などと言われるような停滞ないし低業績に苛まれる。本研究課題で実地に訪問した企業でもそれは討議対象の大きな課題であった。これは上記のプロセスを把握しきれない状況で計画立案し、意思決定する好ましくない行動になるし、迅速な戦略行動や適応を難しくする。情報処理能力が鍵となるという意味合いはこのような状況を改善するためには近年では特に情報処理技術の活用力が重要になるという視点で研究を進める。サプライチェーンと製品開発の能力の強化という経営焦点の組織的浸透と、情報処理能力の強化は相互に双対的に関わる問題という枠組みでの研究の深耕を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の最終年度の3月より来日予定のスペインの共同研究者が、COVID19によって来日を取りやめざるを得なくなって、滞在費補助に相当する額が次年度へ繰り越す必要がでてきた。2020年度11月に奈良で開催予定の第6回世界生産管理学会に合わせて来日し、Industry 4.0に関する国際共同調査協力企業へのヒアリング調査、論文執筆の共同研究をする予定とした。しかしながら、本学会はCOVID19の収束に関する懸念によって来年度(2021年)9月へと延期することとなって、本学会に合わせたスケジュール(10月中旬以降)での来日について若干の懸念が出てきている。しかしながら、共同研究論文作成の進捗上、2020年度中に安全な渡航か可能になる状況を待って適切な時期に来日することにしており、そのための補助として使用する計画である。共同研究の内容は本質的には変わらないが、本研究者および共同研究者は上記の世界大会でのプレナリーセッションをおこなう計画が浮かび上がってきたのでそれに合わせて本研究課題に沿った共同研究内容を煮詰める作業も予定している。
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備考 |
共同研究者本人のウェブではなく、大学の本共同研究者の業績などの紹介をしているものである。
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