2020年度は、研究期間全体の研究成果として『英国の人事管理・日本の人事管理:日英百貨店の仕事と雇用システム』を刊行した。同書は、日英をそれぞれ代表する百貨店の事例による人事管理の日英比較研究である。先行研究であるDore(1973) British Factory - Japanese Factory.が「市場志向」型と「組織志向」型としてそれぞれ特徴づけた英国と日本の雇用システム(人事管理・労使関係の体系)が、1980年代以降の変化を経て現在どこまで近づき、どのように互いの個性を保っているかの解明を試みた。そのために同書では、パートタイム雇用などの非典型雇用の人事管理も視野に入れるほか、人事管理の「柔軟性」や労使の共有する仕事と賃金の配分ルールに着目し、また製造企業と比べ研究蓄積の少ない小売企業の国際比較研究とした。事実発見として、日英の雇用システムは、英国企業において、賃金決定や人材育成、労使コミュニケーションの企業内化が進展することで一定の「収斂」を見せた。しかし、日英で一般的な人事管理は、依然として互いに体系的に異なる特徴を保つ。こうした事実発見は、雇用システムの「収斂」と「多様性」をめぐる学術的な議論に対して、社会ごとに異なる労使の公正観に支えられた賃金と仕事の配分ルールに応じて、各国の雇用システムがそれぞれの個性を保ちうることを示す。また、2020年度のもう一つの研究成果として、論文「企業組織の国際比較における方法―人事管理・労使関係の事例研究を中心に」を公表し、本研究での日英比較の経験をもとに、企業組織の国際比較研究を行ううえでの方法上の留意点を整理して明らかにした。
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