研究実績の概要 |
自然科学の学術専門領域の研究者集団(研究コミュニティと称す)には、それまでに蓄積された知識に囚われ他領域の進歩や現況の認識を欠いたまま研究に邁進してしまう現象が散見される。これを経路依存性と定義し、これを形成する有力な因子を知識の蓄積とルーチン(研究を行う際にとる一連の行動)であるという仮説を設けこれまでに取得した青色LED開発研究で競合したGaN結晶開発とZnSe結晶開発のデータをもとに、理論化と論文作成を行った。具体的には、科学的知識は知識の蓄積によって特徴づけられるという事実に基づき、専門分野の累積論文数が科学の進歩の軌跡を示す代理変数と捉え、GaN研究関連論文の累積数を分析したところ、2014年のノーベル物理学賞受賞者による画期的科学発見の直後、GaN研究関連論文の累積数がロジスティック曲線に沿って急速に上昇することがわかった。一方、ZnSe研究関連論文の累積数は、画期的な発見がないまま、ゆっくりと単調に増加していることがわかった。ZnSeとGaNの研究コミュニティの知識蓄積の側面とルーチンの違いを探るため、当時の研究者へのインタビューを行ったところ、GaN研究コミュニティは当初から既存の科学理論を覆すような試みを頻繁に行う型破りなルーチンを持ち、ZnSe研究コミュニティは既存の科学理論や知識の蓄積に焦点を当て、新しいアプローチを敬遠するルーチンを持っていることがわかった。したがって、どちらの軌跡も知識の蓄積によって形成されたものであるが、異なるルーチンが異なる軌跡を形成したことが示唆された。以上の研究1件および付随する研究1件の英語論文をほぼ完成させた(24年度前半に投稿予定)。またこれをもとにした研究を国際会議ISPIMで報告した("Detection of promising science that contributes to high-tech business innovation", 33th ISPIM Innovation Conference)。
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