ネットワーク外部性が大きな効果を有する市場において、市場が飽和状態にある場合、あるサービスの効用が変化したときに、市場シェアにどのような変化が生じるかを、イジング型のエージェントモデルを拡張することにより、数値的に調査した。 具体的には、イジングモデルにおいて、各エージェントが取り得る状態を拡張し、複数の整数値を取り得るようにして、互換性のある同種のサービスを提供する複数の企業が存在し、それらの間でシェア競争が行われる状況を再現するモデルを用い、前年度までよりもさらに詳細な数値計算を行った。モデルそのものは前年度までと変わらないが、数値誤差の少ない計算により、前年度までの結果の正当性が確認できた。 また、これらのモデルが内包する、成長とシェア獲得に関するメカニズムを理解し、特に、イジング型のモデルに存在する相転移現象との関連性を分析するために、前年度よりも現実を良く再現していると考えうる、スケールフリーネットワークを用いて、相転移と成長曲線との関連性の分析を行った。 その結果、定性的な傾向は、単純なイジングモデルの場合と同様で、成長曲線において、初期段階ではシェア獲得に時間がかかるChilling Effectが存在しないパラメータセットがあることがわかった。このことは、飽和市場においても、各種のイノベーションや社会的制約などによって、市場を規定するパラメータが変化すれば、後発のサービスでもシェアを獲得できる可能性があることを意味している。
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