研究課題/領域番号 |
17K03977
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
松本 茂 同志社大学, ビジネス研究科, 准教授 (80772079)
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研究分担者 |
砂川 伸幸 京都大学, 経営管理部, 教授 (90273755)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | M&A / 相乗効果 / クロスボーダー / 買収後の経営 / 規模の経済性 / 範囲の経済性 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度にあたる平成29年度は、海外での買収後の経営に関する定量的分析と定性的分析の第1フェースを行った。 まず定量分析では、2002年から2011年の間に日本企業が実行した海外企業買収案件(100億円以上)181件をトムソン・ロイターのデータベースから抽出。案件ごとの現況を、有価証券報告書、会社プレスリリースなどを元に、買収企業の存続、そして対象事業の継続保有または撤退、売却について調査を行った。その結果、買収企業の破たん、撤退、売却に至った失敗は31案件であった。1985年から2001年に実行した海外買収では全116件中、51件が失敗であったのと比べ、失敗の比率は減少していた。 定性分析では、買収を用いて世界的な事業に育てた企業(村田製作所、堀場製作所、ダイキン工業、グローリー、日本板硝子、DMG森精機、参天製薬、古河電気工業、ニチリン、古野電気、敬称略)の協力を得て、海外M&A後の経営についてインタビューを実施した。特に買収後の相乗効果について、重複を源泉とする規模の経済性による効果と、補完による範囲の経済性による効果に分類し分析を行った。その結果、クロスボーダーの買収では製品やサービスの補完が販売増に繋がる相乗効果が大きく、次いで、現地で事業の重複が存在する場合に、統廃合や共同購買など規模の経済性を源泉とした相乗効果が利益改善に寄与していることが判った。 研究成果を組織学会研究大会(2017年6月)で発表するとともに、国民経済雑誌に論文「海外M&Aによる相乗効果創出の機構」として投稿(2018年2月掲載)した。また英国Palgrave Macmillan社と出版契約を締結し、研究成果の英語での執筆にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定量分析では買収案件のデータ抽出、そして買収後の現状を確認するためのデータ収集(有価証券報告書、プレスリリースなど)の作業に計画以上に時間を要した。買収した事業の継続保有、撤退、売却のエビデンスをひとつひとつ集めて、確認することは、本研究の重要な作業であることから丹念に調査を行った。本研究の礎となる案件データが揃ったことから、今後、買収後の利益成長の長期評価、そして成否に影響を与える企業行動に関する分析を行う。 定性的研究では、海外M&Aで相乗効果を実現した有力企業10社が本研究への協力を快諾して下さったことから、マネジメントインタビューなどのスケジュールを予定通り実行できた。 現在まで、定量分析、定性分析ともに、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は定量分析の第2フェーズとして、買収した事業を継続保有する150案件について成功案件を特定する。成功は、買収企業が対象事業及び地域セグメントで買収後に最高益(営業利益)更新率50%以上を実現したことと定義し、調査を行う。1985年から2001年の間に実行した案件では116件中9件ののみがこの条件をクリアしていた。2002年以降の買収において、成功比率に改善が見られるかを確認する。次に、特定した成功、失敗案件をもとに、買収の成否に影響を与える企業行動を、買収前の選択と買収後の経営に起因する事項に分けデータを収集していく。 定性分析では第2フェーズとして、相乗効果を実現した10の有力企業の買収後の経営について海外現地を訪問し、ローカルの視点で買収による相乗効果創出の考察を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
買収後の相乗効果に関する定性的考察について、平成29年度に日本本社でのインタビューを行った上で、海外現地でのインタビューを次年度(平成30年度)に実施することにしたことから、次年度使用額が生じた。本年度に、海外出張旅費として支出予定。
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