本研究の最終年度である令和3年度は、これまでの研究成果を日本経営学会誌から査読付論文「21世紀初頭における製造業企業の海外市場依存度と収益性」として発表、また東洋経済新報社から「海外M&A新結合の経営戦略」として上梓した。 論文では、2001年から2019年における製造業企業の海外売上高比率と利益率の関係について統計検定を行い、売上高の海外比率と利益率の間に負の関係があることを明らかにした。特に、海外売上高比率が低い段階での比率上昇は、全体利益率との負の関係が顕著であった。一定程度、現地での市場占有率を獲得して、規模の経済が働く事業に育てるまでは利益に繋がらないことを示している。 グリーンフィールドでの進出で成功した米国市場でのキッコーマン、インドネシアでのヤクルトも利益成長を持続的なものにするには10年の時間を要し、現地販売から現地生産の拡大に繋げてきたこと、また、インドで合弁と買収を用いて利益成長を実現したスズキは、インド現地で投資を重ねる一方で、米国と中国の4輪市場から撤退するなど、地域を特定した海外事業の深耕が成功に結び付いている様子を定性的に分析した。進出地域が増えることで経営資源が分散する負の影響である。買収による海外事業の拡大に積極的な企業も増えたが、買収後に撤退や売却に終わるケースも多い。グリーンフィールド、買収どちらの進出形態でも利益成長を実現するには現地での規模の経済と経営震源の集中が求められることを示し、海外売上高比率と全体利益率に関する定量分析の結果を補完した。
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