最終年度となる本年度は、前年度までの調査研究で得たデータをテキスト・マイニングの手法を用いて分析することで新製品が台頭した際のユーザーネットワークにおける製品への意味形成ならびに既存製品と新製品の使い分けの解明に取り組むとともに、ネットワーク分析の手法を用いて製品価値を形成するユーザーたちの関係性の解明を試みた。また、昨年度までに取り組んできた製品領域に加え、新たな診療科についても前年度までと同様の方法でデータを収集し、調査研究を行った。これら複数の製品領域の調査を行った結果として得られた発見は、次の通りである。①ユーザーネットワークの中で新製品が認知された後も少なくとも一定期間は並行して利用される。②既存製品と新製品の比較や個別の使用結果が公表され、それぞれの製品価値が構築される。③新製品がユーザーに広く受け入れられるにつれ、ユーザーネットワークはより小さなネットワークに分かれて新製品の意味づけを行っている。例えば既存製品と新製品の特定の疾患や器官への効果、特定の条件下での利用に関して研究されていた。そして④各ネットワークはほぼ同じメンバーで継続的に研究を行っていることも分かった。 これらの発見により、本調査をつぎのように結論づけた。すなわち、ユーザーたちは学会という研究者コミュニティの中で知識の創造を社会的に分業しており、その知的活動の一部分として新旧製品の価値形成を行っているのである。本調査では質的データと量的データの分析を行うことで、ユーザーによる製品価値の形成の構造を詳細に解明することができたといえる。
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