研究課題/領域番号 |
17K03996
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研究機関 | 千葉商科大学 |
研究代表者 |
安藤 和代 千葉商科大学, サービス創造学部, 准教授 (60409620)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ネガティブなクチコミ / サービスの失敗 / サービスリカバリー / 認知的評価理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、サービス消費の文脈で生じるネガティブなクチコミに焦点を当て、受信者ならびに発信者におよぶ影響と、影響の決定要因を解明することである。同時性、異質性といったサービス特有の性質により、事業者は、品質のばらつきを完全になくすことはできない。未熟な提供者による失態や不手際、消費者の期待との不一致など好ましくない消費体験はネガティブなクチコミにつながる。また、無形性、同時性といった特性により消費者は事前に品質を評価することが難しいため、消費者は意思決定にあたり、利用経験者のクチコミ情報を活用する。したがって、ネガティブなクチコミは事業収益に多大な負の影響をもたらすことになる(Berry, 1980; Sweeney et al. 2008)。先行研究では、ポジティブなクチコミの正の影響よりネガティブなクチコミの負の影響が大きいことが指摘されている(Mittal, Ross, and Baldasare 1998; Park and Lee 2009)。にもかかわらず、従来の研究では、顧客満足を前提とするポジティブなクチコミに注意を向けられてきた(高橋1998)。本研究に取り組む理由はこの点にある。 コミュニケーションにおける影響力は情報が発信されることだけで決まるのではなく、情報(例えば、対象、内容、タイプ、メディア)、送り手および受け手の特性(例えば、情報処理能力・関与・購買予定、受け手人数)、送り手と受け手の相互作用(例えば、絆、好意度)といった要因やその組み合わせにより差が生じる。本研究は①消費者から重要視される傾向にある「サービスに関するネガティブなクチコミ」に焦点をあて、②影響力の決定要因や影響のメカニズムを調べることや、③受け手だけでなく送り手におよぶ影響にも注目し検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仮説検証型の研究を予定しているため、初年度である2017年度においては、計画していた①関連研究のレビュー、②企業担当者のヒアリングを実施した。また計画していなかったが、③消費者を対象とするインターネット調査を行い、サービスの失敗にまつわる体験に関する情報収集を行った。 具体的には、次の通りである。①ネガティブなクチコミに焦点を当てた研究をレビューし、定義、影響、動機にまつわる知見を整理した。さらにネガティブなクチコミは、サービスの失敗に接した消費者がその後にとる行動の1つであることから、サービスリカバリー研究の流れの中で検討されてきた。また、近年では、サービスの失敗に遭遇した顧客の怒りやその後の報復的・敵対的行動に焦点をあてた研究が増加していることから、それらも含めたレビューを行った。 ②企業担当者のヒアリングにおいては、複数の企業の協力を得てインタビュー調査を行った。また、特定業界の顧客相談窓口担当者の勉強会に参加し、実態の把握、理解に努めた。 ③さらに予定をしていなかった消費者を対象とする調査を行った。サービスの失敗の内容、サービスの失敗に接した消費者の感情やその後の行動、さらには、企業とのやりとりの内容やそのときの感情、その後の行動について、情報を収集するためインターネット調査を行った。その結果をもとに、サービスの失敗の分類や、サービスの失敗に遭遇した消費者の喚起感情、その後の行動等の把握、それら要素間の関連性の理解につなげることも目的とした。これら活動で得た情報や調査データは、2018年度以降の実証研究の仮説設定に活かす予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に行ったネガティブなクチコミ研究の概観を通して、ネガティブなクチコミには、否定的な情報を拡散することや、組織や従業員に復讐することを目的とするものばかりではないことを確認した。自身におきた出来事に対する状況理解や感情安定化を目的として他者に語る。こうしたタイプのクチコミの場合とその他のタイプのクチコミの場合では、聞き手に及ぶ影響や、語り手と企業やブランドとの関係継続の可能性に違いが生じることが推察される。ネガティブなクチコミのタイプによる違いや、そうした違いを生む先行要因について、検証を試みる。本年度の1つめの取り組みである。 また、復讐や警告を目的とするクチコミを語る顧客は、どのようなサービスの失敗を体験し、どのような評価を行い、その結果どのような感情を抱き、行動につなげるのか。一連のプロセスの把握に取り組む。複数の研究では認知的評価理論の枠組みが用いられている。サービスの失敗の詳細な実態把握、認知的評価の評価軸、感情と対処方略の関連について、仮説を設定し、実証研究を行う。 認知的評価には内的要因や外的状況が影響することが指摘されている。内的要因として個人特性(性別やパーソナリティ、価値観など)、能力(感情知能、情報処理能力など)、ブランドとの関係年齢、ロイヤルティがあげられる。外的状況として、製品やサービスのパフォーマンスや他者の存在などがあげられる。これら要因に注目し、仮説を設定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
企業への取材のための出張経費を計上していたが、特定業界の担当者が集まる勉強会に参加することができ、東京で関西企業の担当者の話を聞くことができた。その結果、旅費が大幅に減少した。2018年度に実施予定の実験あるいは調査の費用に充てたいと考えている。 また、海外での学会発表を見据えて国際学会への登録や出張を計画していたが、日本で開催される国際学会に参加することで代替した。2018年度以降の研究発表に向けて、準備を進める予定である。
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