インターネット上の口コミは閲覧者の購買意思決定に影響を及ぼし,とくに悪い口コミは閲覧者の購買意思決定に負の影響を与える.本研究では,購買検討者が口コミサイトで悪い口コミとそれに対する返信を閲覧する際の心理過程を明らかにすることを目的とした実証研究を進めた. まず,先行研究を整理し,謝罪場面の観察者に関する知見より責任判断バイアスに着目し,口コミとその返信を第三者の立場で閲読する購買検討者が感じる口コミ発信者や企業との類似性が,どのように閲覧者の責任判断バイアスを生じさせ,それが購買意思決定にどのように影響するのかを示す仮説モデルを構築した. さらに,消費者が美容院の購買を検討する状況を設定した場面想定法によるウェブアンケート調査を用いた実証実験により,仮説モデルの妥当性を検証した. その結果,第三者である購買検討者は悪い口コミの発信者と企業のどちらかに偏った判断をするわけではないこと,企業の評価は悪い口コミによって負の影響を受けるものの企業が誠実な返信を行うことで閲覧者の評価は高くなることが確認された.また悪い口コミと企業の返信を閲覧する購買検討者の心理モデルの妥当性を確認することができた. これらの結果は,悪い口コミを書き込まれた企業が、当事者でない第三者である購買検討者に与えてしまう負の影響を抑えるためにどのように対応するべきかという実務的な示唆を与えるものである.その一方で企業の返信に含まれる誠実さが企業の信頼に対して負の影響を与えることが確認された.この相反する心理的影響の要因については,今後さらなる検討を進める必要があろう.
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