研究課題/領域番号 |
17K04011
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
渡部 和雄 東京都市大学, 知識工学部, 教授 (90244532)
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研究分担者 |
岩崎 邦彦 静岡県立大学, 経営情報学部, 教授 (40315213)
梅原 英一 東京都市大学, メディア情報学部, 教授 (00645426)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子書籍サービス / 利用促進方策 / 消費者行動モデル / 電子図書館 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
首都圏に居住する消費者700名に対して,紙書籍や電子書籍に対する意識や利用行動の調査を行った.調査結果を紙書籍、電子書籍の利用者の差異に着目して分析したところ,紙書籍と電子書籍を併用している者(紙・電子書籍併用者)は紙出版物と電子出版物をジャンルにより使い分けていることがわかった.具体的には,新聞や小説,実用書などは紙書籍で読み,コミックは電子書籍で読むことが多い.さらに,紙・電子書籍併用者は利用場面や利用目的により,紙書籍と電子書籍を使い分けていることがわかった.具体的には,じっくり読みたい場合や内容を覚えたい場合は紙書籍を利用し,他に何かしながらや休憩時間,隙間時間,移動中などには電子書籍を読むことが多いことを明らかにした. 一方,平成27年度の文部科学省委託調査によれば,公共図書館における電子書籍の普及は低迷状態である.東京都市大学横浜キャンパスの図書館でも電子書籍はまだ200種類であり,浸透しているとは言えない.そこで横浜キャンパス図書館を事例に,電子書籍と図書館とのギャップ要因をDEMOを用いて分析した.ここでDEMOは,業務の骨格を表すことができるビジネスモデリング手法である.分析の結果,電子図書館システムプラットフォーム選定業務,資料受入業務,貸出業務で紙書籍と電子書籍の業務プロセスの差異があることが明らかになった.特に資料受入業務・貸出業務では電子書籍の業務プロセスが簡略なことが明らかになった.一般的に紙書籍よりも電子書籍の方が書籍単価は高い.そこで紙書籍と電子書籍のTCO(Total Cost of Ownership)シミュレーションを行った.その結果,TCOの観点では平均的な書籍では概算4年で電子書籍のコストが有利との試算が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた消費者調査を実施し,従来とは異なる視点から調査結果の分析ができた.これにより,紙・電子書籍併用者は紙書籍と電子書籍をジャンルや利用場面,利用目的などでうまく使い分けていることが判明した.これらのことを中心に論文にまとめて,主要な学会誌2誌(経営情報学会誌,日本印刷学会誌)に査読論文2編を掲載することができた. また,海外の研究者に,図書館における紙書籍に対する電子書籍の利点についてヒアリングができた.また,電子図書館のコストをシミュレーションし,その結果を学会で発表した.
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今後の研究の推進方策 |
紙書籍や電子書籍の利用に影響する要因を検討し,全国の消費者に対する定量調査などを行い,消費者のライフスタイル・関心領域などと,電子書籍サービスの利用意向などの関係について理解を深める.また,因果関係を構造方程式モデリングによりモデル化する.これらにより,どのような要因を強めたり,制約を緩めたりすると紙書籍や電子書籍の利用が増えるのかを明らかにし,出版社や書店,ネット書店が電子書籍サービスを広げていくために実施可能な方策を示すことまで進めたい. 一方,図書館の電子化を進める要因はコストばかりではない.近年,図書館はラーニングコモンズとして,学生の学習の場所(空間)の提供も要求されている.我々がアイルランド国立大学ゴールウエイ校の図書館責任者にヒアリングしたところ,「ラーニングコモンズは必要であるが,物理的空間の問題で紙書籍が邪魔で電子化のメリットはある.数学や歴史などの分野では電子書籍の方が学習効率が高いと思う」とのことであった.そこで今年度は図書館のデジタルトランスフォーメーションに関して,図書館のIT能力の分析をIT-CMFを用いて行う計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は国内での打ち合わせは電子メールを活用し,出張回数を減らすことができた.また,今回の消費者調査は必要最低限の対象地域,質問数,サンプル数としたため,費用が削減できた.購入する物品もできるだけ安価な業者を探して購入した.これらにより相当な支出削減が可能となった. 令和元年度は,消費者調査においては対象地域を全国に広げたり,質問数やサンプル数を拡大して,多様な観点から分析することができる調査としたい.また,共同研究者との打ち合わせのための国内出張,論文発表のための海外出張,論文誌に掲載される査読論文の掲載料などに使用予定である.
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