研究課題/領域番号 |
17K04018
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
諏澤 吉彦 京都産業大学, 経営学部, 教授 (50460663)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 公的年金 / 私的年金保険 / 経済変動リスク / 賦課方式 / 社会変動リスク / 事前積立方式 / モダンポートフォリオ理論 / ナッシュ分離均衡モデル |
研究実績の概要 |
平成29年度は、公的年金と私的年金保険の連携の必要性の検討を行うとともに、モダンポートフォリオ理論およびナッシュ分離均衡モデルに基づく両者の機能分担に関する予備理論分析に取り組んだ。 公的・私的年金からなる二層構造の合理性については、インフレーションなどの経済変動リスクには賦課方式に基づく公的年金が、少子高齢化などの社会変動リスクに対しては事前積立方式の私的年金保険がそれぞれ効率的に対処するものの、いずれか単独では限界があることが明らかとなった。公的年金からの離脱誘引のリスクに対しては、基本保障の提供による拠出金の低廉化が必要であり、私的年金保険による補完が求められることが分かった。 また、モダンポートフォリオ理論を応用した両者の適切な機能分担に関する分析からは、公的年金については給付金の変動性を十分に縮小することと拠出金を低廉に維持することで加入者の離脱を回避することができ、私的年金保険については、公的年金を補完する追加保障を提供すべきであることが分かった。 さらに、ナッシュ分離均衡モデルに基づく分析では、個人の将来予測に関する限定合理性を前提として、様々な年齢層の加入者の期待効用と、私的・公的年金保険料の公正価格との関係を分析した結果、公的年金は若年齢加入者の効用を低下させない範囲で基本的保障を提供し、それを超えた領域においてリスク細分化を伴う私的年金保険が多様な保障を提供すれば、公的年金制度からの加入者の離脱を回避すると同時に、公的年金を補完するに足る私的年金保険の入手可能性が確保できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公的年金・私的年金保険の併存の合理性を経済変動リスクおよび社会変動リスクなどのリスク要素から確認できたとともに、モダンポートフォリオ理論およびナッシュ分離均衡モデルのそれぞれを応用した予備的理論分析を行い、年金システムからの離脱を誘引しないための年金拠出金の水準とリスク細分化、さらに給付金の水準と変動性に関して、一定の方向性が見出せ、これらの成果について、学会および学術雑誌において発表の機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
理論分析の精緻化を進める。具体的には、より精緻な数理もモデルの構築を試み、これに基づき加入者の期待効用の比較分析を行い、公的年金と私的年金保険のそれぞれにおいて、加入者の選好・リスク水準に基づかない内部補助によるプール保険料で均一保障が提供される範囲と、選好・リスク水準に基づく細分化を伴う分離保険料で多様な保障が提供される範囲が、どのように区分されるべきか、さらに加入を強制とするのか、任意とするのかなどを明らかにする。また、実際の市場データを用いた計量分析を見据えた、データの入手可能性と分析手法の検討を開始する。 さらに、一定の分析結果が得られた都度、それを踏まえて、公的年金と私的年金保険により構成される、実現・持続可能な老齢保障システムのあり方と、公的年金については保険料体系、保障内容、予定利率の水準および年金資産運用方法などのあり方を、私的年金保険については保険料体系、保障内容、契約募集方法、保険企業の支払能力確保方法、その他保険事業規制と保険企業間の競争・協調のあり方を検討していく。
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