研究課題/領域番号 |
17K04018
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
諏澤 吉彦 京都産業大学, 経営学部, 教授 (50460663)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 老齢保障 / 医療保険 / テレマティクス / ナッシュ分離均衡モデル / モニタリング / 逆選択 / モラルハザード / 保険料内部補助 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、老齢保障システムの重要な構成要素である私的医療保険に注目し、個人の健康維持・増進に貢献し得る仕組みについて検討した。具体的には、テレマティクスを用いて被保険者の歩行量を継続的にモニタリングし、保険料割引の適用や還付金支払いを行う健康増進型医療保険が、わが国においても新たに導入されている現状に鑑み、それが、保険契約者・被保険者の行動、そして保険収支にどのような影響を及ぼすのかを、保険経済理論から分析した。さらに、この保険が、保険契約者の保険選択にどのような影響を及ぼすのかを、ナッシュ分離均衡モデルに基づき分析した。 その結果、健康増進型医療保険における精緻なリスク評価は、保険契約締結後にリスク再評価が行われることを保険契約者に認識させることで、逆選択を防止し、保険会社のスクリーニング費用を軽減することがわかった。また、契約締結後もモニタリングにより被保険者の健康増進努力が促され、期待損失が低下することも明らかとなった。しかし、同保険の継続的モニタリング費用は十分に低いとは言えず、そのことが期待損失低下の効果を相殺している可能性が見出され、より低費用の保険商品の仕組みとして、多世代の親族を被保険者とし、相互にモニタリングを行う家族型団体医療保険の有効性が示唆された。 また、歩行量が期待損失と完全な相関関係にあるとは言えず、依然として低リスク者から高リスク者への一定の保険料内部補助が残存すると考えられる。このことを前提としてナッシュ分離均衡に基づき分析した結果、保険料内部補助要素が期待損失に対して定率で保険料に算入された場合に、低リスク者は一部保険を選好し、それが高率となれば、過小な保障しか選択しないおそれがあることがわかった。いっぽうで、内部補助要素が定額で算入された場合には、その金額に関わらず、高リスク者、低リスク者ともに、全部保険が選択されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度まで研究の対象としてきた私的年金保険と公的年金制度と並んで、老齢保障システムを構成する重要な要素である医療保険に対象を広げるとともに、情報通信技術と大量のデータの利用可能性に基づいた革新的な医療保険である健康増進型医療保険を取り上げ、それが期待損失の低下に貢献するいっぽうで、その運営のための保険会社の費用負担が軽くないことに鑑み、より費用効率的な医療保険モデルとして家族型団体医療保険の導入可能性を検討した。さらに、適切な医療保険選択を促す保険料内部補助のあり方を明らかにした。これらの成果について、国際学会および学術雑誌において発表の機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
健康増進型医療保険については、歩行量以外にも期待損失と高い相関を示す指標があると考えられ、そうした指標を保険会社が低費用で収集できれば、保険会社のモニタリング費用が軽減され、ひいては保険契約者の負担する保険料の引き下げが可能となる。このことを前提として、今後は、保険会社がテレマティクスを用いて継続的に収集すべきリスク指標を見出すことを試みる。具体的には、歩行量・安静時心拍数・睡眠時間・体重などの指標と保険事故・医療費とをリンクした統計情報を用い、これらの指標と保険事故の有無および医療費の水準との関係を計量的に分析するとともに、医療費削減に有意性を持つ歩行量以外の指標を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による参加予定学会(日本保険学会関東部会)の開催中止のため、補助事業期間を延長し、研究を継続し、次年度に成果報告を行う。
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