老齢保障システムの持続性向上のためには、その構成要素である医療保険システムが有効に機能しなければならない。2020年度は、医療保険システムにおいて保険事業が担うべき役割を、近年登場した健康増進型医療保険に注目して分析した。同保険は、健康関連指標が改善した被保険者に保険料割引などの経済的インセンティブを付与することにより、その健康維持・増進を促し、保険収支を改善すると同時に、医療費削減にも貢献すると期待されている。同保険が、このような期待に応え得るのかどうかを検証するため、(株)JMDCの協力を得て健康保険組合データを用い、モンテカルロ法によるシミュレーション分析を行った。保険会社が確認容易で客観的なリスク指標として、健康診断計測項目のBMI、血圧、HbA1cおよびALTの計測値が正常範囲となった場合に、期待保険金と医療費がどのように変化するのかを、被保険者の年齢・性別に推計した。その結果、BMIおよびHbA1cについては男性の期待保険金と医療費の削減幅が大きく、ALTおよび血圧については女性のほうが大きかった。とくに効果が高かったBMIとALTについては、前者は男女とも年齢層が高いほど期待保険金と医療費の低下幅が大きいのに対して、後者ではこの傾向は男性のみに見られた。さらに、期待保険金の低下は、保険会社にとっては、生命保険引受リスクを縮小させ、その結果、経済的インセンティブの費用を負担してもなお、その支払能力が強化されることが示された。以上の分析結果は、保険会社に対して財務状況改善に向けた健康増進型医療保険の商品設計のために有用な示唆を提供したのみならず、適切に設計された同保険の普及が公的医療保険を含む医療保険システムひいては老齢保障システムの持続性向上にもつながることを示した。なお、COVID-19による参加予定学会の開催中止等のため、補助事業期間を延長した。
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