研究課題/領域番号 |
17K04031
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
二宮 麻里 福岡大学, 商学部, 准教授 (40320270)
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研究分担者 |
吉田 満梨 立命館大学, 経営学部, 准教授 (30552278)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 伝統産業 / 着物 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究実績としては、島田正和編著『きものとデザイン:つくり手・売り手の150年』ミネルヴァ書房が刊行された。二宮は、「着物の流行と百貨店の役割」において、小売店として百貨店が主導して、きものデザインが大きく変化したことを述べた。小売業は消費者需要を変化させるだけでなく、生産者を組織し、産地との生産・取引方法を変革することにより、和装業界のイノベーションを引き起こしたことを歴史的に明らかにした。デザイン面で革新的な取組をすればするほど販売リスクが高くなり、売れ残る可能性があるため、生産者は「無難な」デザインへと移行して生産するようになる。しかし、明治から昭和初期にいたるまで、百貨店が販売リスクを担い、かつ図案デザインを互いに競わせ、評価することにより、生産者は安心して斬新なデザインを生みだすことができるようになったことがわかった。またプロモーションについても婦人雑誌をうまく活用し、若い世代に対しても流行情報を発信続けた。 吉田は、「戦後~現代のものづくりと市場創造に流通事業者が果たした役割」において、流通業者の行動が消費者の着用習慣に大きな影響を与え、日常的に着やすい着付け方法から、結婚式や成人式などのハレの場に「ふさわしい」と考えられる理想の着方へと変化したことを分析した。伝統的産品の価値にとって必要なのは「オーセンティシティ」であり、商品の正統性を消費者に対して理解させる概念が重要であると分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
残念ながら、コロナ禍で予定していたインタビュー調査が実施することができなくなった。そもそも苦境が続いている業界であり、2020年度は各社その対応に追われているとのことであったので、断念せざるをえなかった。海外展示会も軒並み中止となってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
われわれが過年度に着物業界で新しい取組をおこなっている事業者をヒアリング調査を実施した際、多くの着物の織物業者が既存の産業の枠組みを変化させることに困難を抱え、価格決定権も販路もなく苦しんでいる状況をつぶさに観察した。新しい商品に取り組むためには市場創造が必要であり、それはグローバル市場であればなおさら求められる。 そうした市場創造にはアントレプレナーシップが不可欠であり、新しい業界を立ち上げるには、伝統産業であろうが、一次産業であろうが、スタートアップ立ち上げに似た取組となるのではないかと考える。 また、着物業界は中小零細企業が中心であるため、組織的取組が重要である。組合という公的なだけではなく、互いに助け合う仕組みづくりを構築する必要であろう。それはまさにスタートアップ・エコシステムと同じ仕組みなのではないかと話し合い、新しく研究計画を練り直し、研究申請をおこない、本年度採択された(基盤(C)21K01668「起業エコシステムにおけるバウンダリー・オブジェクトの生成過程)。今年度は起業エコシステムについて研究しながら、その研究での成果を本研究にも生かしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に追加的なヒアリング調査を実施することを予定していたが、それが実現できなかったため、次年度使用額が発生した。そのため、今年度は、ヒアリング調査を実施するのではなく、またテーマについても分析視角をかえて取り組むこととする。
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