研究課題/領域番号 |
17K04034
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
櫻田 譲 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (10335763)
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研究分担者 |
大沼 宏 中央大学, 商学部, 教授 (00292079)
大澤 弘幸 新潟経営大学, 経営情報学部, 准教授 (30468962)
加藤 惠吉 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (70353240)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 租税負担削減 / 実効税率 / 銀行業 / 損金算入 / 貸倒引当金 / ストック・オプション / 赤字配当 / ロジット回帰 |
研究実績の概要 |
令和元年度の研究成果は以下の3つに分類される。 1つ目の研究成果としては昨年度より取り組んでいる課題である実効税率を用いた従来の研究に対する再検討を行い、査読付論文として成果の公表が完了している。従来、企業の租税負担率(Effective Tax Ratio ; ETR)が低い企業は租税回避を企てる意図があるとみなして多くの研究が展開されてきたが、本来ETRは法人の租税負担を示す指標に過ぎない。そこで議論を単純化して検証するために分析対象期間をリーマンショックから業績回復し始める平成21年度を起点とする8年間のマルチデータを銀行業を対象に構成した。対象を公益産業とも言える銀行業にしたのは露骨な租税負担の削減を行わない業種と目されるからである。分析の結果、次のような知見を獲得している。現状では税制改正により銀行業において損金算入が認められている貸倒引当金の計上額が上昇すれば租税負担は下降するが、投融資の原資となる現金保有が多ければ租税負担は上昇するとの結論を獲得した。これは法人の租税負担削減という目的によって実効税率が上下動するのではなく、課税上の制約によって実効税率が決定するという示唆を提供している。この知見の獲得により実効税率は経営者の租税負担削減の野心を表す指標であるとの熱狂的信仰に見直しを迫る成果を導出することになった。 2つ目の研究成果としてエージェンシーコストを低減するコーポレート・ガバナンス(CG)の構築上、その導入が重要視されているストック・オプション(SO)制度を採用する企業の特性について検証を行い、査読付き論文として成果の公表を完了している。 3つ目の研究成果として税務行動研究会(令和元年8月19日 北海道大学経済学部棟1階 110演習室)を開催することによって研究代表者の本申請課題に関連する研究構想について数多くの有益な知見を獲得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一部研究分担者の異動により、研究業績の獲得が鈍化した面は否めないが、この穴を埋めるべく、令和2年度から研究分担者として柳田具孝氏(東京理科大学助教)が本研究課題に合流する。同氏は令和元年度から研究協力者として本研究課題に関連する成果を導出しており、本研究課題に関するその他の分担者との間にも研究上の貢献が認められる。柳田氏の令和元年度における本研究課題に対する貢献は潜在的であるが、翌年以降は顕在化するため、本研究構想全体としては進捗状況は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、「今後の研究推進方策」において示した研究課題として還付や追徴が実効税率算定に影響を及ぼすため、租税回避測定指標としてETRの活用が適切でない旨言及し、実態を明らかにする予定でいるとした。しかし、いかなる方法を以て還付や追徴が実効税率を歪めているのか、実態を示す方法が確立できていないため、この課題は保留している。今後もこの課題については多くの研究者に意見を聴取し、成果をまとめるつもりでいるが、その他の課題に関する見通しについて以下の通り、明らかにしておく。 まず今年度は研究開発費の計上が租税負担の回避を目的としているとの先行研究を踏まえ、本当に研究開発費計上企業に租税負担回避の意図があるのか、解明を試みる。企業が研究開発を行う背景には租税負担の削減にあるという着想は、租税負担を削減するためにわざわざ研究開発を行うという経営者の動機を疑ているのだが、そのような無駄な投資を行う企業がわが国において多く存在するのか明らかにしたい。また同時にそのような研究開発税制に対する投資家の反応についてもイベントスタディを用いて検証を行う予定である。 この他、女性従業員や女性管理職、女性役員が企業業績に与える影響についても検証を試みる予定である。近時、CGのあり方としては男性支配を開放するために管理職や役員に女性を起用する動きがあるように思えるが、この動きが投資家に対する単なるポーズに過ぎないのか、女性活用によって実際に業績が向上しているのか、明らかにしてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の異動によって前任校における残務処理が発生したため、本研究課題に対する意識並びに関与が低下したため。
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