研究課題/領域番号 |
17K04036
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松田 康弘 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (70451507)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 資本予算 / 会計情報システム |
研究実績の概要 |
本研究は,管理会計分野の主要テーマのひとつである資本予算に関して,新たな分析モデルを構築することを長期的な目標としたものである.今年度の研究の目標は,モデルの基礎部分を構築することであった.本年度は基本モデルをひとつ作り,ワーキングペーパー(Mazda Y., “Timing of Information Acquisition and Decision Making on New Product Development Under Decentralized Organization,” SSRN Working Paper No. 3153472)を作成することができた.この論文は2017年3月に大阪大学で開催された阪大会計研究会において発表した. この論文は,M&Aによりのれんを獲得した後で新製品の開発や未参入市場への新規参入をする場合に,いわゆるソフトな予算制約のモデルを応用し,研究開発段階での追加投資のインセンティブを分析したものである.この分析モデルは,残余利益型業績指標を用いて管理者の業績を評価,あるいは管理者の利得を残余利益型業績そのものと仮定した場合に,管理者の追加投資水準を制御するためにどのような資本コスト率が設定されるのかを分析したものである.また,このモデルは管理者が情報を獲得し追加投資の意思決定を行うタイミングに注目したもので,より詳細な情報の収集・獲得が必ずしも望ましい帰結をもたらすものではないことを示した.より具体的には,事業への追加投資や撤退について,基礎となる分析モデルを構築したことになる.この研究結果は,昨今増加しているM&Aにともない,投下資本中ののれんの存在がもたらす影響について新たな発見をしたことになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は本研究(研究期間4年)の初年度であった.29年度には基本モデルの構築を計画していたので,この点に関し,基本モデルを構築できたことで,初年度は成功したと言える.しかし,(1)業績評価上の投下資本をのれんと仮定していること,及び,(2)管理者の利得を残余利益型の業績指標そのものと仮定していること,の2点に結果が強く依存しており,一般性の高い分析結果とはなっていない.しかし同時に,作成した分析モデルは構造がシンプルなため拡張の余地が大きく,平成29年度の研究は順調に進んだと言える. 本研究の目的は(1)望ましい情報システムの性質と(2)それを誰が構築すべきか(権限委譲)のふたつであるが,後者については余り進んでいるとはいえなまい.また,この分析モデルはソフトな予算制約のモデルを応用したものであるが,先行研究においては,本部やトップ・マネジメントが管理者に権限を委譲しなければ,事後的に非効率であると判明したプロジェクトに追加投資を行ってしまうという結果が示されている.本研究のモデルではどういった状況でも追加投資が効率的と仮定しており,権限を委譲しない場合にどういった結果になるかはさらに分析が必要である. 当初の研究計画では,管理者は私的情報を持っており,それが非効率の源泉になるというアドバース・セレクションのもたらす帰結からさらに進んだ結果を求めていた.しかし,平成29年度に構築した分析モデルにはこうした情報の非対称性は仮定されていない.モデルの性質上,情報の非対称性をモデルに組み込まずに分析を継続せざるを得ないであろう.この点は,当初の計画からの逸脱であるが,今後は当初の計画を変更し,情報の非対称性のないモデルを中心に分析を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況の項で述べたとおり,平成29年度に作成した分析モデルは拡張の余地が大きく,様々な問題の分析に応用可能である.本研究の主たる分野である管理会計分野に限定すれば,例えばこの業績指標を残余利益型から営業利益等に変更し,資本コスト率を原価企画でいうところの目標原価へと変更すれば,新製品開発における追加投資やよりよい会計情報システムの性質を分析することが可能になる.また,投下資本としてのれんが含まれることもモデルの構成要件から外すことができる.こうした新たな設定のもとで構築する分析モデルは,原価企画を中心とした新製品開発プロジェクトの管理に関連する問題に有用であると予想される.平成30年度以降はこうした原価管理や経営管理上の問題を中心に分析を行う予定である. 本研究のモデルでは,投資プロジェクトの開始後に成功確率が低いと判明した場合の追加投資は効率的であると仮定していた.しかし上記のようにモデルの設定を変更すれば,プロジェクトがまずい状態にある時には追加投資が非効率であると仮定しても意味のあるモデルを構築できる可能性がある.この設定の変更により,原価企画等の原価管理技法が抱えている問題の分析が可能になると思われる.平成30年度以降はこの可能性も追求する. 平成29年度に構築したモデルでは,情報の非対称性を組み込んでいない.この点は当初の計画からの逸脱であるが,情報の非対称性をモデルには組み込むのは基本モデルを即座に応用して実現可能であるとは思えない.従って,平成30年度以降は情報の非対称性をモデルに組み込まないモデルを中心に研究を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費,旅費が当初計画よりもわずかに小さくなったため.
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