今年度の研究では,昨年度の行った資本予算に関する研究をブラッシュアップした. 本研究はリエンジニアリング・プロジェクトに関する管理者・経営者の行動を分析するものである.近年,リエンジニアリングにおいてビッグデータやDX(デジタル・トランスフォーメーション)の重要性が高まりつつあることは言うまでもない. 多角化した大企業の多くは高度に分権化しているが,分権制組織では事業部長等の管理者の側に意思決定の権限がある場合が多い.しかし,管理者がビッグデータを扱うデータ・サイエンティストによる改善・改革に関わるプロポーザルの仕組みや意図を読み取り,適切な資源配分をおこなうことができるとは限らない. 今年度の研究では昨年度に引き続き,こうした管理者の情報や技術に関するリテラシーに注目し,経営者の技術リテラシーが分権制組織における資源配分にどの ような影響を与えるのかを分析した.本研究の特徴は技術リテラシーを表現した点にある.より具体的には,管理者のリテラシーがゲームの初期時点では経営者本人すらも観察不可能であるケースを考え,データ分析班からの提案に対してどのような行動を取るかを分析した. 分析モデルは契約理論の枠組みのひとつであるアドバース・セレクション・モデルを応用したものである. 分析の主要な結果は以下のとおりである.標準的なアドバース・セレクション・モデルと比べ,非効率的なタイプの管理者のプロジェクトのサイズが大きくなるケースが存在する.また,管理者がデータ分析班の改革提案を受け入れる条件を特定し,データドリブン経営の拡大を阻む要因を説明した.この結果はディスカッション・ペーパー"Manager’s Technology Literacy and Obstacles to Data Driven Management"にまとめられている.
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