研究課題/領域番号 |
17K04040
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
中野 誠 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (00275017)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マクロ利益 / 集約利益 / GDP |
研究実績の概要 |
本研究の目的はミクロレベル(企業レベル)の会計情報を集約(aggregate)して作成したマクロレベルの会計情報を用いて、マクロ経済指標(GDP、個人消費、企業の設備投資)の将来予測を実証的に行うことにある。マクロレベルの会計情報としては、全上場企業の営業利益総額、当期純利益総額あるいはその変化分、ROA(それを分解した売上高営業利益率、総資産回転率)などが、その代表的な尺度である。本研究では、なじみの深い日本のデータを用いた分析からスタートし、徐々に国際的な比較研究に進める計画を立てている。 今年度の主たる研究業績としては、『証券アナリストジャーナル』誌の2018年6月号に掲載した「マクロ利益とマクロ成長:消費経路か投資経路か」をあげることができる。アベノミクスでは、好業績企業が積極的に投資を行い、また賃金を上昇させることで消費の拡大につながることが期待されている。本論文では、国内企業の業績改善が実際にその後の国内経済の成長を導くかどうか、また、その後の経済成長を導くのは「消費経路」なのか「投資経路」なのかについて、日本のデータを用いて分析した。第1分析では、国内企業全体の利益率を表す集約利益率(aggregate earnings)の変化が将来のGDP成長率に関係することを確認している。続く第2分析では、集約利益率の改善(悪化)が、企業の設備投資・在庫投資といった将来の投資の増加(減少)を引き起こすことが観察された。しかし、将来の消費支出や政府支出に及ぼす有意な影響は観察されなかった。2つの分析結果から、少なくとも短期的には、国内企業の業績改善が将来の国内経済の成長を導く経路は、消費支出や政府支出の拡大ではなく、企業投資の積極化を経由したものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に出版した『マクロとミクロの実証会計』では基礎的な発見事項を中心とした論稿を発表した。平成30年度には、未解決で残された論点、すなわちマクロ利益と将来GDP成長率の相関関係の根底にある因果関係の解明に努めた。具体的には、個人消費経路か企業投資経路かというパスである。この点についての分析が進んだことから、「おおむね順調に進展している」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
日米の先行研究は、集約利益がGDP成長のシグナルとして機能する点を報告している。今後の研究の推進方策としては、次の2点を予定している。第1に日米以外の国際データを用いた国際比較研究を実証的に行う。これにより、研究の外的妥当性を担保できる可能性がある。第2に集約利益とGDP成長の関係性について、経済危機などの外的ショックを考慮に入れる。集約利益とGDP成長の関係性が常に観察されるのか、経済状態(the state of the economy)に依存する関係なのかを実証的に分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、次の2点である。第1に、財務データの収集および整理のために計画していた人件費が予想を下回ったためである。当該アルバイト人材が迅速に作業を完遂したため、人件費が予想額を下回った。第2に、出張期間が短くなったことから、出張旅費が計画を下回ったためである。今年度の使用計画としては、国際学会報告の出張旅費に充てる予定である。
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