この研究では、継続企業の前提(going concern)に関する開示に焦点を当て、経営者が行うGC開示と監査人が行うGC開示との比較を行う。日本では、2009年に、GCリスクの開示に影響を与える制度改正が行われた。制度改正前には、GCとしての状態に重要な疑義(substantial doubt)があると判断した場合には、経営者は財務諸表の注記においてその旨を開示することが求められていた。この注記開示は監査の対象であり、また監査人は監査報告書の追記情報としてこれに言及することが求められていた。他方、制度改正後には、GCとしての状態に重要な疑義がある場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」および「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に開示を行うことが求められるようになった。この開示については監査の対象ではない。さらに、経営者による対応にもかかわらずこの重要な疑義が解消されず、重要な不確実性(material uncertainty)が存在する場合には財務諸表への注記が求められることとなった。以上のような制度改正が、経営者のGC情報の開示行動にどのような影響を与えるのかを検討することが本研究の主たる目的である。すなわち、監査の対象となるという意味で強制開示である場合と、自発開示である場合とで、バッドニュースであるGC情報の開示行動がどのように異なるのかを明らかにする。GC開示に関する先行研究に基づく回帰分析モデルを採用し、制度改正前後の日本の上場会社に関するデータを用いて分析した結果、GCとしての状態に重要な不確実性がある場合に、経営者はより開示を行う可能性が高いことが明らかとなった。すなわち、財務諸表において強制開示を求められるよりも、監査の対象とはならない自発的開示として開示を求めるほうが、バッドニュースの開示は促進されることが示された。
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