海外子会社の業績評価や、そのコントロールのあり方、本社と海外拠点間の連携等については、多くの研究成果が存在するが、進出時の事業計画や資本予算がどのようなものだったのか、そして、期中のモニタリングや事後評価がどのように行われているのか、それらの評価が海外事業の継続・新規投資・撤退・転出という意思決定にいかなる影響を与えているかについての研究は極めて少ない。企業の機密にあたる内部データを利用することから、研究が進んでいないのが現状であった。 そこで、本研究では、会社名秘匿を条件に事例ベースの定性的研究を行うこととし、事例として内部資料にアクセスを許可してをいただいた中堅企業(製造業)から海外投資に関する取締役会の詳細な議事録を入手し、事後監査に関する議論についての分析を行った。具体的には、サイボウズを利用したチャットシステムによる詳細議事録であり、きれいに清書された公式文書である議事録と違って、取締役会での発言内容が、記名式でありのままの状態で記載されているものと、その後の正式な文書の両方の入手が可能になった。分析の結果、業績のよい国への再投資に関しては非常に短く簡単な承認で投資が承認されていること、業績が厳しい国の再投資については、かなり長い議論があり、本国からの設備搬入などで再投資額をできる限り抑えようとしていることなどが確認できた。業績が厳しい企業に関しては、金利の変動を加味したキャッシュフロー計算書が作成されるなど、厳密に投資評価が行われていた。 さらに、事例企業の代表取締役社長に行った複数回のインタビュー調査の分析から、海外事業のマネジメント経験者が事後監査の際にさまざまな投資評価尺度を提供するなど、投資の各段階において、当初海外事業進出時に想定した評価指標以外の視点を用いて評価していることが分かった。
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