本研究は「原価企画」において、開発・設計担当のエンジニアが、原価以外に、機能・品質・重量・寸法など、様々な制約があるなかで、それらの要求を満たす設計解に辿り着く過程を、情報処理の視点から明らかにしようとした。そのために、トヨタ自動車のチーフエンジニア、商品企画担当者、調達担当者、開発プロジェクトの進捗管理担当者、マツダの原価企画部、自動車部品メーカーへのインタビューを行った。また、1960年代末から現在までの原価企画に関する国内の論文のレビューを行った。 研究成果は、次の通りである。①2018年8月30日~9月1日に早稲田大学早稲田キャンパスで開催された日本原価計算研究学会第44会全国大会において、論題「原価の見積りエラーを生じさせる2つの原因」として報告した。この内容は、②同学会の学会誌に投稿し、『原価計算研究』第43巻第1号に「原価見積の失敗の原因と原価企画の2段階モデル」として掲載された。また、③2019年9月2日~4日に成蹊大学で開催された日本原価計算研究学会第45回全国大会で、論題「原価企画における設計解導出のプロセス・モデル」として報告した。この内容は、同学会の学会誌に投稿したが不掲載となった。現在、改めて公表するために修正中である。 研究成果の概要は、次の通りである。まず、原価企画において設計段階における原価見積と実際に発生する原価に差が生じる2つの原因を指摘した。本研究ではこれらを「外挿による錯誤」「品質設計の脆弱さ」として説明した。また、これに基づいて、マツダが行っているパラメータ共通化による設計を説明した。次に、複数の制約条件を同時に満たす設計を行うときの情報処理を「多元化」として説明した。これは、与えられたパラメータについて全ての要求を満足させられない場合に、前提としていないパラメータを追加することによって、関数を変化させて設計解を作り出す方法である。
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