本研究は,環境経営における経営者の意思決定をコントロールするために有効な会計報告制度の設計へ展開する基盤を確立することを意図して,経営者の環境会計報告における決定プロセスをモデル化し,環境会計システムが及ぼす影響を分析する。本年度は,(1) 過年度の研究成果の公表に取り組むととともに,(2) 過年度に分析したモデルを拡張し,既存株主による持分の売却と,企業活動から生じる外部性に関する既存株主の選好に関する仮定したモデル分析を実施した。当該研究の成果として,前年度に実施した国際誌投稿論文2件の査読結果にもとづく論文改訂の継続および国際誌へ新規投稿1件を実施した。 (1)は,過年度に国際誌に投稿した論文2件に対する査読審査コメントに対応した論文改訂に取り組んだものである。第1論文は,環境会計情報を私的情報として投資決定に用いる情報トレーダーが存在するモデルに依拠して,環境会計報告が市場流動性に与える影響を分析した。環境会計情報入手コストを負担して観察する情報トレーダー数が資本市場において内生的に決まる仮定を新たに導入して再分析をした。第2論文では,CSRに関して不均質選好をもつ投資者から構成される証券市場における企業のCSR情報開示政策を分析した。改訂においては,CSR情報の開示のみならずCSR投資水準の決定が企業の決定変数であるという仮定を導入した再分析結果を論文に反映させる作業を実施した。 (2)は,不均質選好市場における企業によるCSR情報精度の選択モデルに,新たに2つの仮定(既存株主による持分の売却と,企業活動から生じる外部性に関する既存株主の選好に関する仮定)を導入して均衡分析をした結果を取りまとめ,新規投稿を実施した。既存株主がリスク回避的である場合,当該株主が企業活動から生じる外部性について選好の大きさとそのCSR報告の質に負の関連性があるという結果を得た。
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