研究課題
本研究の目的は,負債の認識拡大に関する理論的・実証的研究を行い,貸借対照表を重視する会計モデルの特性を明らかにすることである。令和元年度は,オペレーティング・リース取引に焦点を当て,負債の認識拡大が会計情報の有用性に及ぼす影響について実証分析を行った。オペレーティング・リース取引は,現在,注記情報として開示されるが,オンバランス化の方向で議論が進展している。負債コストの代理指標として社債スプレッドを用いて,オペレーティング・リース取引のオンバランス化が負債コストに及ぼす影響を分析した。ファイナンス・リース取引と異なり,オペレーティング・リース取引が負債コストと関連性があることを支持する証拠が得られなかった。さらに,企業会計基準第13号適用後,ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の間で負債コストとの関連性が異なることを示した。これらの結果は,債券投資家がオペレーティング・リース取引を考慮して企業の信用リスクを評価していないことを示唆している。次に,負債の認識拡大が監査人の行動に及ぼす影響について分析した。とりわけ,年金負債の認識と開示の差異が監査報酬と監査コストに及ぼす影響について実証分析を行った。分析の結果,認識と開示の間で,年金負債と監査コストとの関連性に差異があることが明らかとなったが,年金負債と監査報酬との関連性に差異があるという証拠は得られなかった。さらに,積立不足が大きい企業において,年金負債の認識と開示の間で監査コストに及ぼす影響が異なることが分かった。これらの結果は,注記から認識への年金会計基準の変更によって,監査人のビジネスリスクが増加したときに,監査人は,リスクプレミアムを監査報酬に課すのではなく,注記で開示される年金負債よりも財務諸表本体で認識される年金負債に対して,追加的な監査労力を費やすことを示唆している。
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Journal of International Accounting, Auditing and Taxation
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10.1016/j.intaccaudtax.2020.100303
国際会計研究学会年報
巻: 2018年度第1・2合併号 ページ: 19-33
企業会計
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