研究課題/領域番号 |
17K04053
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
榎本 正博 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (70313921)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 財務報告の質 / 投資の効率性 / 持合比率 / 銀行依存度 |
研究実績の概要 |
本研究ではまず財務報告の質と投資の効率性に関する分析を行ったBiddle and Hilary (2006)に着目した。この研究は国際比較研究であり,日本のデータでは財務報告の質と投資の効率性について関連が示されていない。彼らは金融機関の力が強いことと系列が資金の供給源であることが,公表会計情報以外で情報の非対称性を緩和していると推測している。今年度はこの研究に依拠し,長期的なデータを用いて,わが国の財務報告と投資の効率性についてその推移に着目した。Biddle and Hilary (2006)のサンプル対象期間である2001年で区分すると,2001年までのデータを用いた場合にはBiddle and Hilary (2006)と同様の結果が得られたが,それ以降のデータを用いた場合には,財務報告の質が過大投資を抑制した結果となった。次に,その原因を探るために,銀行借入金依存度と持合比率に着目した。この比率を着目したのは,Biddle and Hilary (2006)の解釈に依拠している。2001年以降のサンプルにおいて,銀行借入金依存度と持合比率の大小にサンプルを分けて,同様の分析を繰り返したところ,双方の比率が高いサンプルにおいては,財務報告と投資の効率性の関係が見られなかったが,低いサンプルにおいては関係が見られた。これは,銀行借入金依存度と持合比率の高サンプルにおいては,私的情報が公的な情報(財務報告の質)を代理しているため,財務報告と投資の効率性に関係が見られていないが,低いサンプルにおいては財務報告の質が投資効率性に影響を与えていることを示唆している。このことは先行研究であるBiddle and Hilary (2006)の解釈とも整合的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,財務報告の質と投資の効率性について分析が進んでいる。研究実績の概要で述べた内容については,現在ディスカッションペーパーの執筆が進んでおり,当初の予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究実績は,財務報告の質として会計的裁量行動を用いている。財務報告の質としては,他に実体的裁量行動,利益平準化,利益ベンチマーク達成などがある。2018年度以降においては,これらの財務報告の質(利益の特性)の変数を先に紹介したモデルに投入することで,財務報告の質と投資の効率性の関係が明らかにしていく。 2017年度においては,持合比率等をコーポレート・ガバナンス変数として検討した。今後は他のコーポレート・ガバナンス変数,例えば,コーポレート・ガバナンスの水準を指標化したデータベースの指標,取締役会の構成,株主構成,資本構成等を取り扱い,財務報告の質と投資の効率性の関係に与える影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定のデータベース/旅費が他の研究費から支弁できたため。本年度以降は計画に沿って使用する。
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