今年度は当該研究の最終年度ということもあり、マネジメント・アプローチが多国籍企業の情報開示選択に及ぼす影響についての総括的な研究を行った。今年度の研究成果としては、単著論文を2本公表するとともに、学会・セミナー・研修会等で4つの研究発表を行った(日本経済会計学会、TKUファイナンス研究所セミナー、DIVAセミナー、日本公認会計士協会全国研修会)。それ以外にも、財務情報と非財務情報を用いた実証分析のスキル向上(因果推論、テキストマイニングなど)に向けて取り組んだ。 本研究で得られた結果は以下のとおりである。(1)マネジメント・アプローチ導入後、有価証券報告書上で地域別セグメント情報を開示する企業は少なくなったものの、決算短信上では引き続き、地域別セグメント情報を自発的に開示する企業が少なからず存在する(約3割の多国籍企業が地域別セグメント情報を開示)。(2)レバレッジが高く、有形固定資産の割合が大きく、役員持株比率が低く、税引前利益が少なく、海外売上高比率が低く、繰越欠損金を積極的に利用する企業ほど、地域別セグメント情報を非開示にする傾向にある。(3)地域別セグメント情報を非開示にする多国籍企業が租税回避に積極的になることから、地域別セグメント情報の開示は透明性の向上とそれに伴うモニタリング機能の向上を通じて、多国籍企業の租税回避を抑制する効果がある。(4)地域別セグメント情報を開示する多国籍企業のアナリスト利益予想誤差が小さく、非開示にする多国籍企業のアナリスト利益予想分散が大きいことから、地域別セグメント情報の開示は投資家の情報環境を改善する効果がある。
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