研究課題/領域番号 |
17K04062
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 博行 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60326246)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自社株買い / 配当 / 将来業績 / 株主資本コスト / インプライド期待リターン / インプライド期待成長率 / 同時逆算手法 / コロボレーション効果 |
研究実績の概要 |
自社株買いは、配当と並ぶ2大ペイアウトとして位置付けられている。本研究は、配当との比較の観点から、自社株買いが株主資本コストに与える影響を実証的に解明することを主たる研究課題としている。その一環として、初年度は主として、以下の証拠を得た。 第1に、年次決算発表で次期増配予想を行った増配予想企業と、年次決算発表期間中に自己株式取得枠設定を公表した自社株買い企業の各種財務指標を比較した。その結果、自社株買い企業は、増配企業と比べて相対的に、外国人(個人)持株比率が低く(高い)、次期の増益予想確率や成長性が低いといった証拠を得た。この結果は、成長が鈍化した企業が自社株買いを行い、逆に、好業績、高成長企業が増配を行っていることを示している。 第2に、自社株買い企業の将来ROEを増配企業と比較した。その結果、増配企業が将来、好業績を達成しているのに対して、自社株買い企業の将来業績は、むしろ安定配当企業の将来業績さえ下回っているという事実を発見した。 第3に、自社株買いや増配予想の公表を受けて、投資家が、当該企業に対する成長期待や期待リターンをどのように改訂しているのかを調査した。その結果、増配企業の期待成長率と期待リターンは、いずれも前期と比べて上昇しているが、逆に、自社株買い企業のそれらは、いずれも低下しているという証拠を発見した。第2の分析結果とあわせると、自社株買いの公表を受けて、当該企業の将来業績の不良さを反映する形で、市場の成長期待と期待リターンが低下したと解釈できる。 自社株買い企業に関する以上の結果は、基本的に米国の証拠と同様であるが、増配企業の結果は日米で大きく異なる。米国では、配当と自社株買いは類似しており、ともにFCF仮説で説明可能である。一方、日本では、自社株買いはFCF仮説で説明できるが、配当は収益性シグナリング仮説と整合的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本経営財務研究学会第41回全国大会(2017年9月3日、関西大学)で「日本企業のペイアウトの動向」と題する統一論題報告、日本ディスクロージャー研究学会第16回研究大会(2017年12月16日、法政大学)で「配当研究の回顧と展望」と題する研究報告を行うとともに、1つの論文を公刊した。2年目以降の本格的な分析を行うためのリサーチ・デザインの構築に際して、初年度の研究成果が与える貢献は大きい。以上から、研究活動はおおむね順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
学会や研究会で得たコメントに基づいて、すでに初年度の実証分析の精緻化を図っている。また初年度の研究成果を踏まえた上で、本研究課題のリサーチ・デザインを構築する。その後、データベースが完成次第、本研究課題の実証分析に取りかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度使用額が生じた理由は、海外での研究報告や英文ジャーナルへの投稿を次年度に積極的に行うためである。次年度は、最新データを用いて初年度の分析をさらに精緻化させる予定である。
(使用計画)次年度に使用する予定の研究費は、初年度の実証分析を精緻化させた上で、英文ジャーナルへの投稿(翻訳費用、投稿費用)や海外での研究報告(海外旅費)への支出を予定している。なお、最新のデータに基づく証拠を提供することが実証研究においてとくに重要であることに鑑みて、初年度に購入したデータベースを更新するとともに、東京証券取引所等に出張して最新データを収集する。
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