本研究は、配当との比較の観点から、自社株買いが株主資本コストに与える影響を実証的に解明することを主たる研究課題としている。初年度は、自社株買い企業の将来業績、期待成長率、および期待リターンを増配企業のそれらと比較し、自社株買い企業より増配企業の方が、将来業績が優れているといった証拠を提示した。2年目は、資本の質が増配シグナルの信頼性に与える影響を実証的に検証し、資本剰余金を原資とする増配や連結利益剰余金がマイナスの企業の増配が市場にプラス評価されないという証拠を発見した。最終年度は、ペイアウト政策に関してこれまで実施してきた実証研究を総括し、『会社を伸ばす株主還元』(中央経済社、2019年6月)を出版した。 実証結果は、次のようにまとめることができる。株主優待制度の導入等によって個人株主が増加した企業の将来業績は追加的に悪化している。自社株買いを実施した企業の将来業績も相対的に劣悪である。一方、増配企業は、将来好業績を実際に達成している。それらを反映する形で、自社株買い企業(増配企業)に対する市場の成長期待は低下(上昇)している。以上の証拠は、株式価値最大化の観点からは、株主還元のなかで配当が圧倒的に優位な位置にあることを示している。なかでも、高品質な配当、利益、資本に裏付けられた増配は、市場の評価がさらに高い。これらの実証結果を踏まえ、株主還元の王道は配当であると結論付けている。
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