研究課題/領域番号 |
17K04064
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
足立 俊輔 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (30615117)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 会計学 / 原価計算 / 病院経営 / TDABC / クリニカルパス / タスク・シフティング / キャパシティ / 病院価値 |
研究実績の概要 |
本研究は、クリニカルパスを活用した病院バランスト・スコアカード(以下、病院BSC)と時間主導型の病院原価計算の関係を、日仏米の国際比較の観点から整理することで、医療におけるマネジメント・コントロール及び原価計算のあり方を検証することを目的としている。具体的には、患者ケアサイクルに焦点を充てたマネジメントツールとして地域連携クリニカルパスを活用した病院BSCの特徴を明らかにし、当該BSCのKPI指標として、「時間」を配賦基準とした病院原価計算(時間ベースの病院原価計算)で算定されるキャパシティ情報(業務遂行に用いられる資源の量)を用いることの有用性を検証することを目的としている。 本研究は、医療分野で活用されているクリニカルパスに着目し、クリニカルパスとの関連で病院BSC及び時間ベースの病院原価計算の関係性を明らかにしようとしている点に、学術的な特色・独創的な点がある。そこで本研究では、①「地域医療を対象にした病院BSC」に対する地域連携パスの有用性に関する研究と、②クリニカルパスを活用した「時間ベースの病院原価計算」の導入運用に関する研究の2つの課題に取り組むことで、クリニカルパスを活用した病院BSCと時間主導型の病院原価計算の体系的な分析整理を行う。 以上の研究を行うにあたり、地域連携クリニカルパス(以下、地域連携パス)と病院BSCの関連性について研究調査を進めていきながら、同時に時間主導型活動基準原価計算(TDABC)の研究成果をクリニカルパスに関連させながら研究を進めていく。具体的には、クリニカルパス・地域連携パスの文献資料や学会誌の収集を行い、最新の病院BSCや病院TDABCの事例を掲載した書籍や学会誌などの資料収集も行う。文献収集だけではなく、国内を中心に実際の病院訪問調査を行い、病院BSCおよび病院原価計算に対する現場の意見も積極的に取り入れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、病院原価計算(ABC及びTDABC)に関連した研究を行った。具体的には、①アメリカ病院経営における「価値」概念の内実と病院TDABCの特徴に関する研究と、②DPCデータから抽出した「診療行為回数」を用いた病院原価計算システムの検証を行っている。 ①は、オバマ政権下での医療保険制度改革(オバマケア)を運用面で支える病院「価値」概念の内実を明らかにすると同時に、キャプラン、ポーターなどハーバード・ビジネス・スクール教授陣が着手した病院TDABCプロジェクトの実態を分析している。本研究から、「医師の働き方改革」の解決策として取り上げられているタスク・シフティングをはじめ、院内の様々な業務プロセスをコスト面から「見える化」する意義を提示している。以上の研究成果は、平成31年度に単著として出版予定である。 ②の研究成果は、(1)水野真実・足立俊輔・丸田起大「患者属性と患者別収益・費用の関係性―DPCデータを活用した患者別活動基準原価計算にもとづく考察―」(日本原価計算研究学会第44回全国大会、平成30年9月1日)、(2) 水野真実・足立俊輔・丸田起大「患者別収益性評価に対する間接費配賦方法の影響-活動基準原価計算と限界利益法の意義-」(会計理論学会第33回大会、平成30年10月7日)で報告しており、平成31年度にはそれぞれの研究成果を公刊する予定である。例えば、(2)は共同研究者の協力のもと、院内財務データに変動費・固定費の区分を組込み、固定費に対しては応能主義配賦(限界利益比例)を行う原価計算データの有用性について、現場の医療従事者からの意見を取り入れながら検証している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、①「地域医療を対象にした病院BSC」に対する地域連携パスの有用性に関する研究と、②クリニカルパスを活用した「時間ベースの病院原価計算」の導入運用に関する研究の2つの課題に取り組むことで、クリニカルパスを活用した病院BSCと時間主導型の病院原価計算の体系的な分析整理を行う。 平成29年度は、病院BSCに関する研究発表を行い、平成30年度は、病院原価計算(ABC及びTDABC)に関連した研究を行っている。平成30年度は、これまで着手していなかった「クリニカルパスと時間主導型ABCの関係性」を中心に研究を進め、当該研究成果を博士論文に組み込み、平成31年度(令和元年)に著書として公刊予定にしている。加えて、平成31年度は、病院BSCと原価計算システムの関係性の研究成果としてまとめることも検討している。 病院の実務研究においては、熊本機能病院(熊本県熊本市)の他、公立八女総合病院(福岡県八女市)が調査対象病院に加わっている。平成30年度には実施しなかったものの、沖縄県のちばなクリニック・徳山クリニックの病院BSCも調査予定にしている。調査は、病院BSCの「財務の視点」に関するKPI指標と、アウトカムに関連するKPI指標のバランス、変革エージェント・スポンサーの存在意義に着目して実施する予定にしている。 平成29年度に渡仏した成果は、時間要素を重視した原価計算であるフランスのUVA法と関連させ、病院TDABCやRVU法(相対価値尺度法)など、時間要素を配賦基準とした原価計算の国際比較研究として進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は病院原価計算に関する研究を中心に行った。それゆえ、病院BSCに関する研究に関する支出をおさえたため、その分だけ使用額が少なくなった。今年度は病院BSCと病院原価計算の両方の研究を進めるため、関連学会への参加のほか、参考図書や雑誌の購入に予算を充当することにしている。
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