本研究は、クリニカルパスを活用した病院バランスト・スコアカード(以下、病院BSC)と時間主導型の病院原価計算の関係を、日仏米の国際比較の観点から整理することで、医療におけるマネジメント・コントロール及び原価計算のあり方を検証することを目的としている。最終年度は、クリニカルパスのような病院経営に比較的馴染みやすいタスク・シフティング(業務移管)に焦点を当てており、当該研究概要は、(1)単著の出版(『アメリカ病院原価計算』同文舘出版、1-348頁)を介して、タスク・シフティング(TS)と病院管理会計の関係性の研究に取り組んだことと、(2)「医師の働き方改革」におけるTSの推進と病院BSCとの関係性に集約することができる。
(1)については、単著の出版(『アメリカ病院原価計算』同文舘出版、348頁)を踏まえて、アメリカ病院原価計算におけるTSに関する先行研究が、日本の医療提供体制にどのような影響を与えるかについて研究および学会報告を行った(足立俊輔「タスク・シフティングに病院原価計算が果たす役割」日本管理会計学会第57回九州部会、2019年11月9日)。
(2)については、病院BSCを用いたTSの推進プロセスとして、戦略マップの構築などを通じた組織内のコミュニケーションの推進の他、病院原価計算(特にTDABC)で算定したTSに係るコスト情報を用いて「財務の視点」からのアプローチも視野に入れることができることについて考察を加え、学会報告および論文投稿を行った(足立俊輔・末盛泰彦「病院BSCとタスク・シフティング(業務移管)の関係性」九州経済学会第69回大会、2019年12月7日)。具体的には、絶対的医行為のTS、例えば気管挿管などの麻酔業務は解決すべき課題が多く、たとえ相対的医行為であっても、研修・教育の必要性の観点から、「学習と成長の視点」のKPI指標が重視される可能性を指摘している。
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