研究課題/領域番号 |
17K04067
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
小倉 昇 青山学院大学, 会計プロフェッション研究科, 教授 (10145352)
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研究分担者 |
馮 玲 東京理科大学, 理工学部経営工学科, 教授 (40339114)
山口 直也 青山学院大学, 会計プロフェッション研究科, 准教授 (50303110)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 個品管理 / 経営情報システム / 管理会計 / 原価計算 / 環境適応 |
研究実績の概要 |
2018年度は、3年間の研究プロジェクトの第2年度として2つの大きな研究課題を研究プロジェクトのメンバーが分担して取り組んだ。 第1の研究課題は個品管理の進展が管理会計情報に与えた変化に関する文献研究を完了させることである。これは2017年度から継続して取り組んできた研究課題であり、2018年度の秋までにほぼ終了し、研究成果を取りまとめ小倉昇稿「日本企業における環境変化と管理会計変化」(会計プロフェッション、No.14、23-34)に発表した。この論文では、管理会計情報の変化を研究するアプローチに、導入研究とパッケージ研究の2つの視点があること、従来は新しい管理会計手法の導入時の促進要因や阻害要因に着目する導入研究が注目される傾向があったが、既存の管理会計手法と併用される隣接手法との関係の変化に着目するパッケージ研究の評価が高まりつつあり、個品管理の進展と管理会計情報の関係という研究テーマはパッケージ研究の延長線上に位置づけられることを説明した。 第2の研究課題は、個品管理の進展が日本企業の原価計算情報と管理会計情報に与えた影響について実態を裏付けるための調査を行うことであった。8月から12月にかけ、国内の製造業3社の協力を得て訪問調査を行うとともに、研究プロジェクトのメンバーが分担をして質問紙調査の準備を行った。訪問調査から得られた知見を反映させた質問項目を作成し、一部の質問項目を使って試行的なプレ調査を実施した。試行調査の概要の一部は、山口直也稿「我が国の中小企業における管理会計の実態調査」(メルコ管理会計研究、11(1)、29-42)として発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要において述べたように、2017年度から継続した管理会計情報の変化に関する文献調査を行うことは予定通りに終了し、研究成果を小倉執筆の論文として発表することができた。 第2の研究課題である原価計算情報および管理会情報と個品管理の浸透の関係を実態調査に基づいて検証することについては、今年度は訪問調査に応じてくれる協力企業を探し、インタビューを中心とする事例研究を進めることに多くの時間を割いた。事例研究の成果を発表するためには一定の時間が必要であるので、まだ成果発表まで至っていないが、研究の実体は進んでいる。 また、日本企業の管理情報の実態について質問紙を使って検証するための質問紙調査の準備を研究プロジェクトメンバーが分担して行った。原価計算情報に関する質問紙調査の準備は青山学院大学の研究者および大学院生のチームがあたり、管理会計情報に関する調査の準備は東京理科大学の研究者と大学院生のチームが作業を進める分担形態で、訪問調査から得た問題意識を組み込んだ質問紙を作成し、少数の協力企業に回答を依頼してプレ調査を行った。2018年度中には本格的な調査を開始するまでには至らなかったが、おおむね順調に研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年から2018年前半を通じて行った文献研究から得られた知見をもとに質問紙調査の前に個別企業の中での管理システムの利用状況、特に目的が異なる複数の管理システムがパッケージとして組み合わせて用いられている実態について調査をすることが必要であるという気付きを得た。この知見に基づき、当初の研究計画よりも訪問調査に時間をかける必要性を感じている。 製品の個品管理は企業が採用する情報システムの方向性と表裏一体の関係にあり、企業の情報システムはその時代の情報技術に依存する。これらの情報技術の採用を経営管理に活用するために、原価計算情報や管理会計情報の改変や再設計が必要になると仮定をして研究を進めてきたが、協力企業への訪問調査から、個品管理を推進する情報システムの導入や改変と、原価計算情報および管理会計情報の更改の間には少なくないタイムラグが存在することが明らかになった。企業の実態に基づく検証研究は今回の研究課題の重要な要素ではあるので、2019年も協力企業の数を増やし、訪問調査の成果を蓄積することを継続する。 他方で、質問紙調査などの方法により大量の観察対象からデータを得ることを試み、原価計算情報の個品管理と売上高情報の個品管理の間に明確な対応関係が存在することを確認する。質問紙調査から収集した回答データを分析することによって、企業によって対応関係の強弱が存在することも検証できると思われる。さらに、原価計算情報の個品管理と管理会計情報の個品管理の間に対応関係が存在する条件を抽出することを試みる。このような条件が明確になれば、企業の情報システムの設計のひとつのガイドラインとして有効である。調査データに対するこれらの分析によって、個品管理を導入する企業において実践的に利用可能な会計情報を定義することが可能になると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況の欄で説明したように、2018年度の研究プロセスでは、協力企業への訪問調査によるフィールドスタディに多くの時間を使い、質問紙調査の準備にあてられた時間が相対的に少なくなったために、質問紙調査に使用する研究費が計画より少なくなったこと、また、研究成果を発表する機会が少なく、学会旅費を使う必要も少なかったことが、次年度使用額が発生した主な原因である。 2019年度は、2018年度から繰り越した研究費を利用して、計画より範囲を広げた規模の大きな質問紙調査を実行可能になり、このことは研究成果にプラスに働く。また、2018年度から繰り越した助成金を利用して積極的に国内・国外の学会および論文誌に成果を発表する計画である。
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