研究課題/領域番号 |
17K04070
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
伊藤 克容 成蹊大学, 経営学部, 教授 (40296215)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 予算管理 / 事業計画 / DDP / マーケティング・オートメーション / セールステック / マネジメント・コントロール |
研究実績の概要 |
当該年度は、以下の2点の成果を収めることができた。 1つめは、デジタル化にともなう販売職能における革新(セールステック)と将来志向予算管理との関係性について、多くの知見、研究材料を獲得したことである。昨年度は、セールステックの中核要素である、マーケティングオートメーション採用企業における事業計画の実態について、複数回のヒアリング調査を実施した。マーケティングオートメーションの類のアプリケーションの導入によって、市場変化への対応力をあげようと企図している企業群では、フィードバックサイクルが短く、研究テーマである「将来志向の予算管理実務」に関して、より頻繁な修正や変更が実施されていることが確認できた。当初の研究計画で想定した通りに、デジタル対応が進んだ企業では、予算管理実務も大きく変更される可能性について定性的な段階ではあるが、確度をもって検証できた。 2つめとして、不確実な環境下における事業評価の手法として定評のある、DDP(discovery driven planning)について、国内企業における様々な利用実態について、継続的なヒアリング調査を実施することができた。DDPは、仮説を明示し、事業環境が仮説通りになっていないことを想定した、事業計画法であり、スタートアップ企業では、採用事例が数多く観察されている。類似の概念、アイデアが、数多く見られるが、組織内にイノベーションを引き起こし、その発生プロセスを管理する方法として、様々な論者によって高い評価がなされている。設立からの歴史が長く、大規模に事業活動を営んでいる企業群でも、新規事業開発分野を中心には、既存の経営管理手法に接続するかたちで、予算管理のDDP的な運用を観察することができた。結果的に、実務としては存在しているが、認知がなされていない状態であることが確認できた。 研究課題に関連して、学会報告1回、論文4編を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
管理会計およびマネジメントコントロールの中心的な手法である、予算管理実務が企業環境の変化(競争の激化、事業ライフサイクルの短縮化、デジタル化などが主要因としてあげられる)に対応してどのように変容しているかをあきらかにするのが、本研究の主たる問題意識である。現在までの進捗状況は、「概ね順調に推移している」と判断できる。 上記の評価に至った理由、成果および課題として、3点を指摘しておきたい。 1つめは、有力な鍵概念を用いることで、情報収集や議論の効率化を図ることができた。具体的には、不確実性の高い事業環境に適応させた事業計画の手法として、よく知られているDDPをきっかけ、取っ掛かりとすることで、インタビュー対象との間で認識の共有化が促進されたことがあげられる。当初は、様々な概念構築にも独自に取り組んでいたが、齟齬が大きく、上手く伝わらない場面も散見された。 2つめとして、当初計画では、①「見込管理」(事後管理から事前管理へのシフト)、②「学習志向の予算管理」(統制型から仮説検証型へのシフト)、③コントロール・パッケージ(財務偏重から経営システム全般の重視)の3点に着目し、有効性および普及状況について、調査するという研究計画を構想していた。採用している研究上の概念自体は、異なること、国際比較に耐えられるほどのまとまったサンプル数が得られていないという課題は残るものの、概ね、当初の想定通りに調査を実施し、学説のバージョンアップに値する仮説を導出することができている。 3つめに、概念自体が揺れ動いていた探索的研究のためやむを得ないが、方法論が偏ってしまったことが、「当初の計画以上の推移」として評価できなかった理由としてあげられる。当初予定では、調査の方法として、(A)ヒアリング調査、(B)質問票調査、(C)文献調査のバランスを意識していたが、質問票調査を本格的には実施できていない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
研究プロジェクトの最終年度にあたることから、以下の2つの推進方策を構想している。 1つめの推進方策としては、引き続き、将来志向の予算管理実務の出現領域として、新規事業創出、スタートアップにおけるマネジメント・コントロールに焦点を絞りたいと考えている。たとえば、琴坂(2018)では、「数値をもとに事業モデルの状況を構造的に把握し、それぞれを同時並行的に改善するアプローチは、スタートアップのあいだでは「グロースハック」(Growth Hack)という言葉で最もよく知られている。これは製品やサービス自体だけではなく、その集客手段や運営手段までを含む全社のコスト構造と収益構造を対象に、特に実証データに基づく仮説検証を繰り返す手法である」(p.395)とDDPをスタートアップ企業の実務と関連づけて説明がなされてる。また、入山(2019, p.119)の表現では、「経営学者による、リアルオプションのフレームワーク化」とオプション理論の実装として記述されていることから、不確実性の高いスタートアップ企業での事業計画実務に焦点を絞り、DDPなどの鍵概念を活用して、実務における先進事例について、情報収集に努め、研究課題の理解をさらに深めたい。 2つめの方策として、前年度同様、将来志向の事業計画をヒアリング調査する対象企業の選定にあたって、マーケティングオートメーションなどのセールステック導入企業にアプローチしたいと考える。デジタル対応に積極的な企業群では、業績管理の頻度が短い傾向が観察される。 上記の推進方策に加えて、情報収集については、(A)ヒアリング調査、(B)質問票調査、(C)文献調査を継続し、定性、定量の両面から考察を深めたい。なお、本研究の成果については、学会報告として、引き続き、随時、中間成果物を公表する予定である。学会報告を改善し、論文として最終的な成果発表につなげることを考えている。
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