研究実績の概要 |
「企業予算は、企業活動全体を計画し統制するために、多くの企業が利用するきわめて重要な管理用具」(岡本ほか(2008), p.115)として広く知られている。様々な実態調査の結果からも、一貫して高い採用率が報告され、大規模組織を運営する際の重要なツールとしての地位と存在感は現在でも失われていない。 予算管理システム自体は、多くの企業で採用されているが、企業環境の変化にともない、その運用方法や利用目的には大きな違いが観察される。予算管理の実務には、現在、イノベーションが起きている。本研究では、①「見込管理」(事後管理から事前管理へのシフト)、②「学習志向の予算管理」(統制型から仮説検証型へのシフト)、③コントロール・パッケージ(財務偏重から経営システム全般の重視)の3点に着目し、有効性および普及状況について、国内外の企業の予算管理実務を調査し、効果的な予算管理システムの運用方法について考察した。 ①見込管理については、国内先進企業の実務を調査した。②については、2つのアプローチを併用した。1つめは、その代表的なテンプレートとしてDDP(Discovery driven planning)に着目し、国内外の様々な企業での導入事例について、ヒアリング調査を実施した。2つめは、社内ベンチャーやスタートアップ企業での予算管理実践を調査した。③については、主として国内企業を対象にヒアリングを実施した。発見事項としては、企業における濃淡に加えて、事業部門とスタッフ部門との間で認識や評価が大きく異なることが分かった。予算管理の機能として、インセンティブ誘発が知られているが、事前に正解のない高次学習に挑戦する、スタートアップ企業における予算管理実践では、標準(予算数値)は仮説であって、業績測定標準としての規範性は期待できない。予算管理によらない方法でモチベーションが提供されていることが発見できた。
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