研究課題/領域番号 |
17K04073
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤野 雅史 日本大学, 経済学部, 教授 (60361862)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 業績測定 / 定性的研究 / 集団主義 / 管理会計担当者の役割 / 日本企業 / 業績指標 / 役割 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,管理会計の利用が組織内・組織間の関係性にどのような影響を与えるのか,その関係性からどのように共通理解が形成されるのかを探索することである。研究実施計画にもとづき,本年度は文献調査と,それに並行して複数の事例研究を進めてきた。 文献調査では,日本企業の管理会計担当者をめぐる歴史的・教育的コンテクストが,管理会計担当者と業務管理者との関係性にどのような影響を与えたのかを考察した。歴史的には,管理会計担当者の起源の1つが工場にあり,そこでの経験を重視するエンジニア的な思考が,業務管理者との密接なコミュニケーションを重視する関係性を形成してきたことがわかった。また,現在でも,会計部門が事業部や工場などに分散していることが,そこでのOJTやジョブローテーションをつうじて,管理会計担当者にとって業務管理者との関係性を形成するスキルを身につける社内教育環境を提供していることがわかった。 事例研究では,日本企業のミドル管理者にみられる集団主義的な価値観に注目し,そうした価値観のもとで,業績指標がどのようにミドル管理者たちの役割認識に影響を与えているかを考察した。集団主義的な価値観とは,関係性の構成員にとって何よりも関係を継続することが規範であり,その構成員はその関係性に溶け込み,そこで求められるタスクを果たすように動機づけられていることである。こうした価値観をもつ者にとって,管理会計システムのなかで割り当てられる業績指標は,関係性のなかで求められる目標像と結びついており,その期待に応えようと職能横断的な幅広い役割を引き受ける行動を引き出すことがわかった。 以上のような研究成果は,これまで日本企業に特徴的であるとされてきた管理会計実務を理論的に解明するものであり,日本企業が今後さらにグローバルに事業を展開していくにあたって,コミュニケーションや協力関係の促進につながるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における2つの事例研究プロジェクトを順調に進めることができた。第一の組織内相互作用プロジェクトは,リサーチサイトでのデータ収集がほとんど完了し,共同研究者との研究成果論文の作成を進めている。共同研究者と複数回にわたり,二日間あるいは三日間の論文検討会を行い(8月2回,1月2月各1回),論文の執筆とその改善に関する集中的な議論を行った。2月後半にはフィンランドにて国外研究協力者のK. Lukka教授から作成中の論文の改善点について助言をもらうことができた。また,中間的な研究成果を,ENROAC Conferenceや日本会計研究学会全国大会などで研究報告した。第二の組織間相互作用プロジェクトでは,インタビュー調査や参与観察をつうじて,フィールドから豊富なデータを収集することができた。前年度までの予備調査段階から,管理会計と組織間相互作用に関する本格的な調査の段階に進んだといえる。また,論文の作成に向けて,理論的な論点整理と事例要約を説明した論文概要を作成した。この論文概要をディスカッショングループにおいて報告し,研究プロジェクトの改善に関する有益なフィードバックを得ることができた。 以上の二つのプロジェクトに加えて,第三の研究プロジェクトに着手することができた。この研究プロジェクトは,民間企業における会計部門とその他の部門との間の関係性構築に関係している。今年度は5回の訪問調査を行い,インタビューデータを入手することができた。 国内研究協力者らとのディスカッショングループを8回開催することができた。毎回1名の報告者がフィールド調査を含む研究プロジェクトについて報告を行い,定性的なデータからの理論構築について議論を行った。定性的なデータからの理論構築に関する研究成果の一部は,日本原価計算研究学会全国大会において研究報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画にしたがい,2018年度も三つの事例研究プロジェクトを並行して進めていく。第一のプロジェクトは,2017年度までに学会報告論文を作成済みであるが,そこで得られたフィードバックを踏まえて,共同研究者とともに論文を改善していき,ジャーナルへの投稿論文を完成させる。その過程で,必要に応じてさらに学会報告を行う。第二のプロジェクトは,フィールドにおけるデータ収集を継続するとともに,学会報告論文を作成して,学会報告を行う。また,学会報告の前後には,国内研究協力者とのディスカッショングループやその他の研究会などでも研究報告を行い,今後の論文の改善点を明確にしていく。第三のプロジェクトは,フィールドでのデータ収集を継続する。また,国内研究協力者とのディスカッショングループに加えて,国外の研究協力者との議論をつうじて研究課題をシャープにしていく。2019年度には,第三のプロジェクトについても学会報告論文を作成して,学会報告を行えるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたフィールド調査の実施が年度末近くになり,そこで収集したデータ整理のための経費が次年度に繰り越されたため。このデータ整理は次年度に実施する予定である。
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