本研究の目的は,管理会計の利用が組織内・組織間の関係性にどのような影響を与えるのか,その関係性からどのように共通理解が形成されるのかを探索することである。研究実施計画にもとづき,本年度は文献調査と,それに並行して3つの事例研究を進めてきた。文献調査は,おもに事例研究による理論的な貢献を明確にするため,業績測定,管理会計担当者の役割,非営利組織のアカウンタビリティといった領域の先行研究を検討した。 事例研究については,三つのプロジェクトを遂行した。第一のプロジェクトは製造会社の中間管理者の業績測定に関する事例研究である。研究の結果,管理者間に生じた業績の違いが他の管理者への負い目を強め,そのことが管理者に幅広い役割を引き受けさせたり,他の管理者に対して共感的に配慮したりする行動をとらせることがわかった。第二のプロジェクトは,ある地域コミュニティでのアカウンタビリティに関する事例研究である。この地域コミュニティでは,介護や福祉の専門家たちが高齢者の移動問題に取り組むプロジェクトを立ち上げた。専門家らは,コミュニティの関係者らとの協働をつうじて,プロジェクトの意義をコミュニティメンバーに理解してもらうためのアカウンタビリティメカニズム(アンケート調査報告会,プロジェクト共同趣意書など)を開発していった。こうしたメカニズムの開発には,専門家とコミュニティ関係者との相互作用をつうじたコミュニティ能力の向上が重要であることを明らかにした。第三のプロジェクトは,外食チェーンにおける管理会計担当者の人材育成に関する事例研究である。事例研究は継続中であるが,中間的な研究結果として,若手の管理会計担当者が管理会計システムの導入に携わる経験が人材育成に重要な意味をもつことが明らかになった。
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