研究課題/領域番号 |
17K04083
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
増村 紀子 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (30388334)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金融商品 / 時価情報 / 一般事業会社 / 開示 / 金融負債 / 自己創設のれん / 信用リスク / 財務諸表の利用者 |
研究実績の概要 |
本年度は、一般事業会社による金融商品全体の時価情報の開示は、株価との関連性がある有用な情報であるのか否かを明らかにしようとした。そのために、オフバランスの未実現損益と株価との関連性を調査した。結果は次のようにまとめられる。 ①株式時価総額に対して、連結財務諸表上の資本、利益、そして注記で開示されている金融資産と金融負債の各々の未実現損益を回帰した。その結果、金融資産の未実現損益が増加すれば株価が上昇するという関係があったが、金融負債の未実現損益には、株価との明確な関連性を見出すことはできなかった。 ②会計学上では、金融負債の未実現損益は、企業の資産側でオンバランスされていない自己創設のれんの利益や損失によって、実質的に相殺されているといわれている。企業の信用リスクの変化は、金融負債の未実現損益を生じさせる主要な要因となっており、同時に、企業に期待される将来の利益を左右するものである。そこで、金融負債の未実現損益の開示の重要性が高い企業のサンプルを特定して選出し、信用リスクの変化が、金融負債の未実現損益と株価との間に明確な関連性を見出だせなかった原因になっているのか否かを確認した。 ③その結果、信用リスクが変化していない企業の金融負債の未実現損益は、連結財務諸表上の資本と利益に加えて、株価との関連性を有する情報を持つことが明らかになった。信用リスクが変化した企業の金融負債の未実現損益は、株価との関連性を有する情報は有していなかった。本研究で前提とした、信用リスクが変化した企業については、有利子負債(社債・借入金)の未実現損益を相殺するオフバランスの自己創設のれんの利益や損失を所有する傾向のある企業である、ということが証明できた。この事実は、金融負債の未実現損益とオフバランスの自己創設のれんの利益や損失とが相殺されるという金融負債の会計上の通説に合致する結果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究から、一般事業会社による金融商品全体の時価情報の開示は、信用リスクの変化により生じる自己創設のれんに関する開示がいまだ求められていないゆえに、財務諸表の利用者にとって有用な情報であるということは限定的にならざるをえないことが示された。この成果は日本会計研究学会第76回全国大会で発表し、論文(増村紀子、2017年)にとりまとめて公刊した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、金融負債の時価情報と将来業績および将来株価との関連性を調査する。
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