研究実績の概要 |
研究期間の第二年度に当たる平成30年度では、前年度から継続して組織内の原価管理活動と組織間の原価管理活動との関連性についての文献レビューを実施するとともに、これをふまえた両者の関連性に関わる概念モデルについて検討した。 両者の関連性については、近年の研究であるDekker(2016)において指摘されているものの、①組織内や組織間の管理システムのどのような要素に注目すべきなのか(説明変数や被説明変数の特定化)、および、②両者の関連性に影響を及ぼす他の要因にどのようなものがあるのか(制御変数の特定化)については、十分に明らかにされていない。そこで、平成30年度では、先行研究の指摘をふまえながら、その限界を克服することを目的として、前年度に実施した文献レビューをもとに、①と②について検討してきた。また、これに関わる研究成果を逐次公表してきた。 まず、①については、原価管理の構成要素を包括的に調査し、先行研究で利用される概念や変数を整理した(Agndal and Nilsson, 2019: Caglio and Ditillo, 2012; Caglio, 2018; Cooper and Slagmulder, 2004; Dekker, 2003; Kajuter and Kulumala,2005; Mahama, 2006; Windolph and Moeller, 2012 など)。また、②については、組織間の統治構造に影響を与える要因について検討した(Arino, Reuer, Mayer and Jane, 2014; Gulati, 1995; Gulati and Singh, 1998; Luo, 2002; Poppo and Zenger, 1998, 2002; Schreiner, Kale and Corsten,2009 など)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度では、組織間の原価管理活動と組織間の原価管理活動との関連性を解明する上で必要となる、①説明変数と被説明変数の特定化と、②制御変数の特定化について、先行研究の包括的なレビューをもとに取り組んできた。 ①については、組織内と組織間の原価管理活動に関わる研究(Cooper, 1996; Cooper and Slagmulder, 2004; Fayard, Lee, Leich and Kettinger, 2012; Hiromoto, 1991; Kato, 1993; Mahama, 2006; Monden and Hamada, 1991; Tani, 1995 など)や、コスト情報を含めた組織間での情報共有に関わる研究(Agndal and Nilsson, 2010, 2019; Caglio, 2018; Drake and Haka, 2008; Essa, Dekker and Groot, 2018; Kajuter and Kulumala, 2005; Windolph and Moeller, 2012 など)について整理し、両者の関連性に関わる概念モデルを詳細に検討してきた。 また、②については、組織間の統治構造に関わる隣接領域の研究(Arino, Reuer, Mayer and Jane, 2014; Gulati, 1995; Luo, 2002; Poppo and Zenger, 2002 など)だけでなく、企業の直面するリスクを取り扱った研究について広範に調査した(Gordon, Loeb and Tseng, 2009; Shi, 2011など)。 以上のことから、関連する先行研究についてのレビューはおおむね実施しており、順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間の第三年度に当たる令和元年度では、前年度までの成果を基礎に、組織間マネジメント・コントロール研究の中で実証的な研究方法を採用するもの(Anderson, Christ, Dekker and Sedatole, 2014; Anderson and Dekker,2005; Anderson, Dekker and Van den Abbeele, 2017; Dekker and Van den Abbeele, 2010; Ding, Dekker and Groot,2013; Krishnan, Miller and Sedatole, 2011; Stouthysen, Slabbinck and Roodhooft, 2012, 2017など)を考慮して、質問票調査で利用する個々の質問項目を具体的に開発する。 また、質問項目の開発に並行して、本研究課題に関連する研究テーマに注目する国内や海外の研究者から意見を求め、概念モデルや個々の質問項目の妥当性について確認する。さらに、日本の実務家や実務家経験を持つ大学教員を対象としたインタビューを実施し、質問項目に必要な修正を加えて、質問票調査の実行可能性を向上することを計画している。これらの手順は、本研究課題に関連する実証研究の動向をふまえながら、先行研究の無批判な援用により生じる弊害を縮減し、本研究の学術的な価値を確保する上で不可欠であるため、慎重に実施する予定である。 なお、次年度において新たに生じた研究成果は、学会や研究会などで適宜発表する。
|