研究課題/領域番号 |
17K04085
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坂口 順也 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (10364689)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 組織間 / 組織内 / 相互作用 / 原価管理 / 経験的研究 |
研究実績の概要 |
研究期間の最終年度に当たる令和2年度では、これまで実施してきた組織内と組織間の原価管理活動との関連性についての文献レビューを整理するとともに、これをふまえた研究成果を公表・報告した。具体的には、①組織間における協働と取引相手の特徴にかかわる研究成果、および、②わが国の組織間マネジメント・コントロールの動向にかかわる研究成果である。 まず、①の研究成果では、組織間の原価管理活動の中核をなす「目標設定・評価」を含めた「組織間協働」が、組織内の原価管理活動を反映する「取引相手の特徴」にどのような影響を受けるのかについて、先行研究(Dekker 2008; Dekker and Van den Abbeele 2010; Donada et al. 2019; 加登 1993; 坂口 2014など)を基礎に検討している。検討の結果、取引相手の特徴が組織間協働の諸側面(目標設定・評価、相互浸透、問題解決)に異なる影響を与えることを明らかにしている。また、②の研究成果では、『レレバンス・ロスト』以降の1987年から2017年の31年間にわたるわが国組織間マネジメント・コントロールの研究動向について、引用分析の手法(Hesford et al. 2007; Shields 1997;横田ほか2020; 吉田ほか 2009など)を用いて検討している。検討の結果、組織間マネジメント・コントール研究は、わが国において増加傾向にあるものの、それぞれの研究の基礎となる引用文献が特定のものに集中する傾向があることを明らかにしている。 その他、③組織間を含めたマネジメント・コントロール全般の動向にかかわる研究成果も公表した。ここでは、書誌学的な方法を基礎として、方法論(定性、定量、論説)ごとに、引用文献に顕著な差が見られることを明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度では、これまでの広範な文献レビューや中間的な研究成果を基礎として、①組織内や組織間の管理システムを構成する要素(目標設定・評価、相互浸透、問題解決とその基礎となる情報共有など)、②両者の関連性に影響を及ぼす取引上のリスク要因(不確実性、資産特殊性、取引規模など)と、③組織内および組織間の原価管理活動の関連性についての概念モデルの構築を実施してきた。 しかし、令和2年度に予定していた国内の他の管理会計研究者との意見交換、国内の実務家との意見交換、海外の管理会計研究者との意見交換などが、新型コロナウィルスの影響により十分に実施できなかった。とりわけ、令和2年度中に予定していた概念モデルの改善や質問票の作成・改善のためのインタビュー調査(事前調査)に伴う国内出張や、組織間原価管理にかかわる国際的な研究動向の把握と実施予定の質問票の改善のための研究打ち合わせに伴う海外出張(オランダ、アムステルダム自由大学など)が、実施できなくなった。とりわけ海外出張については、新型コロナウィルスの感染が国内よりも深刻であることから、連絡を取ることも困難な状況となった。 組織内と組織間の原価管理活動の関連性については、国内だけでなく、海外においても重要な研究テーマである(Dekker 2016)。そのため、概念モデルやこれに基づく質問票の精緻化は、本研究において最終的に予定している成果の良否に大きな影響を与えると考えられる。本研究の最終的な研究成果が、管理会計研究の進展に貢献するためには、国内の他の管理会計研究者、実務家だけにとどまらず、当該分野で世界的に活躍する海外の管理会計研究者と直接意見を交換することが不可欠であるが、こうした取り組みが十分に実施できなかった。 以上により、現在までの本研究の進捗状況は、遅れていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、管理会計の領域だけでなく、関連する領域(取引コスト経済学、戦略論、組織論など)を含めて広範な文献レビューを実施し、組織内と組織間の原価管理の関連性について整理してきた。また、この包括的な文献レビューをふまえて、①組織内や組織間の原価管理活動を構成する要素、②両者の関連性に影響を及ぼす要因、③これらの関連性を表す概念モデルを構築・修正してきた。さらに、こうした研究活動の成果を学会において報告してきた。 しかし、新型コロナウィルスの感染拡大により、概念モデルの精緻化や質問票の作成・改善が十分に実施できなかった。とりわけ、海外における新型コロナウィルスの感染拡大が国内よりも深刻であったことから、世界をリードする欧米の管理会計研究者との意見交換が予定していたように実施できなかった。 そのため、今年度は、国内の管理会計研究者や実務家、および海外の管理会計研究者と可能な限り連絡を取りながら、対面による打ち合わせだけでなく、ウェブを活用した打ち合わせを実施し、概念モデルの精緻化や質問票の作成・改善のための取り組みを実施することを予定している。また、これまでの研究成果を整理することにより、組織内と組織間の原価管理活動の関連性にかかわる知見を体系立てて提供することを予定している。これにより、組織間における原価管理活動と組織内における原価管理活動の関連性についての知見が、管理会計研究全般においてそのような学術的意義を有するのかを、より明確なかたちで提示することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス拡大の影響により、予定していた研究活動が十分に実施できなかった。とりわけ、国内の管理会計研究者や実務家へのインタビュー(事前調査)や海外の管理会計研究者(オランダ、アムステルダム自由大学など)の管理会計研究者との研究打ち合わせが予定どおりに実施できなかった。そのため、次年度使用額において差額が生じることとなった。 今後は、国内や海外の管理会計研究者と可能な限り連絡を取り、かつ、対面だけでなくウェブを積極的に活用したコミュニケーションを活用して、概念モデルの精緻化と質問票の作成・改善のための取り組みを、状況に応じて実施することを予定している。とりわけ海外については、以前と比べて状況が落ち着いてきており、連絡が取れる状況となっているため、今後は議論を再開していく予定である。さらに、期間延長を積極的に活用し、これまで発表した研究成果を整理し、もって、組織内と組織間の原価管理活動の関連性にかかわる研究成果の学術的な意義を明確に提示していくことを企画している。
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