研究課題/領域番号 |
17K04086
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
乙政 正太 関西大学, 商学部, 教授 (60258077)
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研究分担者 |
岩崎 拓也 関西大学, 商学部, 准教授 (30611363)
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (60330164)
首藤 昭信 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (60349181)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経営者報酬 / 利益情報 / コーポレートガバナンス・コード |
研究実績の概要 |
契約論ベースの会計研究において,明示的・黙示的にかかわらず,経営者報酬契約は経営者と株主の間の利害の対立から生まれるエージェンシー問題を縮減させる役割を果たすと考えられている。株主は,自己の利害に沿うように経営者を動機づけることによって,経営者の行動をコントロールし,経営者の機会主義的行動の誘発を抑制しよとするであろう。効率的なコーポレート・ガバナンスを実現させるという観点においても,内部コントロール・メカニズムをいかに機能させ,経営者をいかに株主の利害に沿うように規律づけるかは重要な課題となっている。 ところが,経営者報酬の内容を見た場合,欧米諸国と比べて日本の報酬水準は低く,固定報酬の割合 (およそ80%程度) が変動報酬の割合よりもかなり高いということが報告されている。株主価値創造に対する経営者へのインセンティブ付与が欠如していることに批判がみられる。経営者が得る報酬額が過大になることは避けなければならないが,重要視すべきはどの程度業績と報酬が連動しているかである。その場合に,利益情報は経営者行動を事後的に評価するための利害調整として有用な役割を果たすことが期待されている。 本年度は,経営者報酬契約における会計利益の利用に関して,効率的契約の観点から,実証会計研究の先行文献をサーベイした。また,日本の上場会社における経営者報酬の水準やその決定方法はこれまで不透明な部分が多くあるが,経営者報酬に関するガバナンス情報の開示がどの程度進展しているかも実例を基に考察した。さらに,コーポレートガバンス・コードの適用以降,会社は新しい報酬制度の導入を探っているので,その仕組みを検討しながら,今後の経営者報酬研究の可能性について調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に取り組むべき主な課題は,経営者報酬に関する実証研究を網羅的にサーベイすることである。経営者報酬のクロスセクショナルな相違や時系列トレンドを説明する代表的な見方として,効率的な契約(efficient contracting) の観点と経営者パワー (managerial power) の観点がある。これらは必ずしも相互に排他的な考え方ではないが,前者はインセンティブ一致の視点 (incentive alignment perspective) から仮説設定されるものである。経営者の利害と株主の利害を一致させる仕組みとして経営者報酬契約が存在することが重要であり,それがモラルハザードのようなエージェンシー問題を緩和するという前提に立つ。実証会計研究の文献では,会計情報が経営者報酬決定において契約上の有用性 (contractual usefulness) をもっているかが焦点となり,主に,企業パフォーマンスに対する経営者報酬の感応度が統計的に推定される。 後者の経営者パワー (managerial power) については,レント獲得の視点 (rent extraction perspective) から仮説設定されることが多い。経営者は株主にとって最適なレベルを超過する報酬を受け取っているという考え方で,トップ経営者は取締役会を言いなりにする経営者パワーを利用し,自己の報酬レベルの決定に関して実質的に影響力を及ぼすという前提に立つ。レントはこの超過報酬から構成される。経営者報酬の支払額の増大に関して,レント獲得仮説はアメリカではよく議論されるが,経営者の報酬レベルが低いとされる日本ではまだ積極的に議論されることはないテーマであることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
2015年3月に会社の経営に規律を求める「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治指針)が制定された。役員報酬に関連するコードは3つで,第1に,基本原則3 (適切な情報開示と透明性の確保;取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続について開示し,主体的な情報発信を行うべき要請),第2に,基本原則4 (取締役会等の責務;中長期的な経営者インセンティブの植え付け) ,第3に,原則4-10 (監査役会設置会社や監査役等委員会設置会社など機関設計をする場合にも,任意の報酬諮問委員会を設置するなどして報酬決定について独立取締役の関与・助言を得るべきと規定),である。これらに関して実務ではどのような取り組みが行われているのか,ケース・スタディを行うとともに,実証研究面においてどのようなリサーチ・デザインを設計することが可能であるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当初購入を予定していたデータベースの購入費,学会参加費,旅費が少なく済んだため。また,学生アルバイトの時間数が予定より少なくすんだため。
(使用計画)残高は少額であり,平成30年度分とあわせて旅費に使用する。
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