研究課題
本研究では、経営者によって裁量可能な会計情報と企業が手掛ける実物投資との関係を理論的・実証的に跡づけることを目的としている。そのような会計情報は効果的な市場への情報発信を可能にすることで、資金調達をはじめとする企業活動を有利に展開することに大きく貢献してきた。その半面、現実から乖離した情報を開示する場合、その情報をもとに行動した投資家は、事後的に損失を被る可能性がある。しかし、会計情報が企業行動の写像である限り、恣意的に歪められた会計情報は、企業行動にも何らかの歪みをもたらすはずである。企業行動の歪みがいずれ是正されなければならないとすれば、事実を逸脱した会計情報の開示を続けることは難しいと考えられる。そのような問題意識をもとに、本研究では会計情報と企業の投資行動とが相互に影響をおよぼす側面を明らかにすることに焦点を合わせてきた。最終年度は、2つの観点から企業行動と会計情報の関係にアプローチした。第一に、企業が自社の事業部門にどの程度権限を委譲するのかを、契約理論をもとに考察した。事業部門に権限が一切委譲されない場合、当該部門が不可逆的な投資を控えようとするホールドアップ問題が生じる。これにより、企業全体として過少投資の状態に陥り、全体最適が実現されない。事業部門の投資コストによって表される当該部門の重要性に応じて権限を委譲することで、支配権の縮小を補償するだけの投資リターンが得られることを明らかにした。第二に、企業間で株式所有の関係が存在する場合に、生産数量を開示するプレアナウンスメントの正確性にどのような影響がもたらされるのかを、モデルによって分析した。そこでは、株式持ち分の大きさによって、プレアナウンスメントの水準が過大あるいは過小になることが明らかにされた。この結果は、経営者予想の正確性の規定要因をめぐる研究に、新たな視点を提供することが期待される。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件)
Asia-Pacific Management Accounting Journal
巻: Vol. 14, No. 2 ページ: 105-114
阪南論集
巻: 第55巻第1号 ページ: 95-107